12話:刺客 ~ 狙われた彩人 ~

 テレビ画面に映る“耳の長いダークエルフの少女”による突然の宣言。


『アタシは今日、貴様からウイ姉様ねえさまを取り戻しに来た!! その薄汚い首をゴシゴシ洗って待っていろ!!」


 ――その直前に、『おいッ、見ているかアカバネアヤト!!』と名前を呼ばれた彩人あやとは机の前で困惑する他なかったが、隣で立っている義理の妹:兎衣ういは違った。


 困惑、というよりは焦りの表情。

 画面の中で、黒スーツの女性にマイクを取り上げられるダークエルフの少女を見ながら、彼女はツーっと冷や汗をかいている


「マズい事態になった。まさかエリスが来るとは……ッ」


「あの子、兎衣ういちゃんの知り合いなの?」


 彩人あやとの幼馴染み彼女:いちごの質問に、コクリと兎衣ういが頷く。


「――エリスは、ボクが異世界で世話になっていた家の娘だ。色々あって仲良くなって、何かと慕ってくれる子なんだけど……ちょっとボクのことを“慕い過ぎている”節があってね」


「慕ってくれるのはいいことじゃないの?」


「慕ってくれる“だけ”ならね。エリスの場合はちょっと度が過ぎているというか、ボクに近寄って来る人をとにかく排除したがる傾向にあるんだ。以前、ボクが異世界で“男”として暮らしていたことは2人にも話したよね?」


「うん。勇者になれるのは男性だけだから、兎衣ういちゃんは男装して暮らしてたんだよね」


「あぁ。だからボクが女だと知っていたのは、エリスとその家族と僅か数名の人間だけ。何も知らない男子は仲良くなろうとボクに声を掛けて来てくれたんだけど……それを全部エリスが追い払ってね。それで結局、ボクには男子の友達が出来なかった。女子ですらボクに近づいてくる子はエリスが睨み返すから、友人関係には本当に苦労したよ」


「あ~……」と納得するいちごの隣で。

「それで“さっきの発言”か」と彩人あやとも納得する。


 兎衣ういのことを慕っている彼女からすれば、彩人あやとの存在は百害あって一利なし。

 エリスが兎衣ういと離れ離れになった原因は他ならぬ彩人あやとであり、それが先程の発言に――『ウイ姉様ねえさまを取り戻しに来た!!』という発言に繋がるらしい。



『えー、会見は以上です。今後の詳細は改めて『異世界庁』より発表致します』



 ざわざわと混乱が続いていた会見場の映像が切り替わり、元々放送されていたアニメに変わる。

 ダークエルフの少女:エリスによる発言は予定外だったのだろうが、予定外なのは彩人あやと達も同じだ。

 特に、この中で誰よりもエリスのことを知っている兎衣ういは、動揺を隠し切れないのか部屋の中をウロウロし始めた。


「参った……コレは彩人あやとのエロ本どころじゃなくなったぞ。対処法を考えないと彩人あやとの命が危ない」


「え、そんな過激な事されるのか? あのエリスって子、まだ子供に見えたんだけど……」


「あぁ、エリスはまだ13歳だ。年齢的にも性別的にも交換留学生に選ばれる筈はないんだけど、エリスの家は国王にも顔が効く古くからの名家だからね。何かしらコネを使ったのは間違いない」


「コネで異世界留学って、夢があるのか無いのかわかんねーな」


彩人あやと、のんびりしてる場合じゃないよ。名指しされた以上、必ず近い内にエリスはやって来る。早ければ明日にも――」



 チャイム音ピンポーン



 ビクッと、3人の身体が震えた。

 あまりのタイミングの良さに「エリスが来た?」と身構えた彩人あやとだが、流石にこの短時間で家まで来ることは不可能か。


「多分、宅配か何かだ。ちょっと行って来る」


 只今の時刻、両親は不在。

 必然的に彩人あやとが対応する他なく、彼は自室を出て階段を降り、玄関――には向かわずリビングへ。


 ご時世的にもインターフォンのモニターで訪問者を確認すると、黒い猫でお馴染みの配送業者が段ボールを片手に立っていた。

 待たせても悪いので「通話ボタン」を押すと、すぐに向こうから声がかかる。


『宅配便です。本人受け取りの荷物なんですけど、赤羽あかばね彩人あやとさんはご在宅でしょうか?』


「あ、俺です。今出ますね(……何の荷物だ? 入院関係の何かか?)」


 クレジットカードや保険証等、大事なモノが郵送で送られてきた場合には本人確認が必要になる。

 ただ、一介の高校生である彩人あやとはクレジットカードなど作っておらず、保険証も自分で出したことなど一度も無い。

 本人確認が必要な届け物に心当たりが無く、直近で言えば「入院」が一番大きな出来事だった為、それ関連の何かだろうと勝手に推測した――それが間違いだった。


「今開けますね」


 開錠ガチャッ

 スリッパを履いて玄関を開けるも、“玄関前には誰も居ない”。

「はて?」と首を捻った、その直後。


(ん? 何だこの匂いは……あれ?)


 “急激な眠気”が襲って来た。

 当然ながら抗おうとするも、それは向かい風に「ふー、ふー」と息を吐き、風向きを変えようとしてるようなモノ。

 闇夜につぶて、焼け石に水な「抵抗」が報われる筈も無く、彩人あやとの意識は暗闇の中に落ちてしまった。

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