10話:序列 ~時間の長さは関係無い~

 ~ 赤羽あかばね彩人あやとが病室で目覚めてから1週間後 ~


 その日、3週間ぶりに教室へ姿を現した彩人あやとにクラスメイト達は驚いた。


「えッ、赤羽あかばね君!?」

「おいおい、もう学校に来て大丈夫なのか?」

「マジでお前、心配かけんなよ赤羽あかばね~」

「あ、赤羽あかばね殿はトラックに轢かれて異世界転生したというのは本当でゴザルか!?」


「心配かけて悪い。けど、身体も大丈夫だし問題ねーよ」


 皆の心配が嬉しく、同時に恥ずかしい彩人あやとが苦笑いで答える。

 そのやり取りを彼女のいちごが微笑ましく見守っているが、これはまだ「前哨戦」。


 彩人あやとの復帰以上にクラスの皆が驚いたのは「ホームルームの時間」だった。


「はいはい皆さん、席に着いて下さいね~」


 教室の扉をガラガラと開け。

 クラスの担任:20代後半の女性教師が入って来たかと思えば、その後ろには見惚れる程の“美少女”。

 それも「普通の制服姿」の美少女に、また転入生がやって来たのかと最初はそう思った生徒もいたが、彼等はすぐにハッと目を見開く。


 クラスメイトの全員が、その美少女の顔に“見覚えがあった”為だ。


 ざわざわざわと、異様なまでにざわつく教室で、担任が「コホンッ」と咳払いして美少女に目配せ。

 それを合図に教壇へ登った彼女は、皆が“聞き覚えのある声”で告げる。



「皆さんお久しぶりです、勇者です。見ての通り、本当は女です」



「「「……え?」」」



「それと、異世界から来たのは本当ですが、実は地球生まれの地球人です」



「「「……え?」」」



「あと、ボクの名前は『赤羽あかばね兎衣うい』――赤羽あかばね彩人あやとの妹です」



「「「えぇぇぇぇええええええええ~~~~ッ!?」」」



 ■



 ~ 放課後 ~


 入院前と同じように、仲良く帰路へ着いた彩人あやといちご

 そんな彩人あやとの隣には当然の様に兎衣ういの姿があり、我が物顔で歩く彼女に彩人あやとは尋ねる。


「改めて確認するぞ? 男装したお前はいちごたぶらかして、俺から引き剥がそうとしていた――ってことでいいんだな?」


「うん、大体そんなところだね。いちご君がボクに浮気したら、それを彩人あやとに密告して二人を喧嘩別れさせる作戦だったんだけど……いやはや、思ったようには上手くいかないものだね。良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」


 やれやれと、彩人あやとの右隣りを歩く兎衣ういが肩を竦め。

 それを見たいちご彩人あやとの左隣)が、不服そうな顔を彼女に向ける。


「そんなことしても無駄だもん。私の彩人あやと君への愛は本物なんだから」


「むむっ、その言い方は何だか棘があるね。言っておくけど、ボクの彩人あやとへの愛だって本物だよ」


彩人あやと君と10年も会ってなかったのに?」


「時間の長さは関係無いよ。いちご君だって、彩人あやとと24時間365日ずっと一緒にいる訳じゃないだろ? 1日2日会わないことだってある筈だ。ボクの場合、それがたまたま10年だったというだけの話さ。それにいちご君が彩人あやとと親しくなったのは、異世界への扉が開いた『開門かいもん』の後だろう? つまり、“幼馴染み序列”で言えばボクが1位だ」


「ッ!?」


 ガーンと、背後から音が聞こえてきそうな程にショックを受けるいちご

 彩人あやとの彼女として、歳を追う毎に強まっていた「幼馴染み」という立場の優位性が一瞬にして崩れたのだ。

 それから「むぐぐぐ……」と悔し気に唇を噛み締める彼女は、「でも」と言葉を切り返す。


「でもでも、現実として10年間一緒に居たのは私だし、総合的に考えれば“幼馴染み序列”の1位は私だもん。兎衣ういちゃんが知らない二人の思い出だって沢山――」


 ここで「ハッ」と言葉を止めるいちご

 しまった、という表情で兎衣ういを見ると、彼女は悲しみを隠した微笑でフルフルと顔を横に振る。


「気にしなくていい。ボクが持っていないモノを、いちご君が沢山持っているのは事実だからね。特にその巨乳とか、巨乳とか、あと巨乳とか」


「私、それしかないの……?」


「冗談だよ。でも、そうだね――うん。彼女の地位はいちご君に譲るよ」


「え……いいの?」


「あぁ、代わりにボクはお嫁さんの地位を貰う」


「だッ、駄目だよ!! 私が彩人あやと君のお嫁さんになるんだから!!」


「別に構わないよ。ただし、いちご君の“お嫁さん序列”は2位だけどね」


「ズルいッ、私だって1位がいいのに!!」


 白熱する女性陣二人の言い争い。

 そのラリーを間で見守る彩人あやとは、「幼馴染み序列とか、お嫁さん序列って何だよ? 俺が知らないだけか?」と困惑しつつも“申し訳なく”思う。


 彩人あやとは1人で、彼を慕う女の子が2人。

 普通に考えると片方の想いには応えられない訳で、現状では10年間一緒だった、そして自分から告白したいちごを選ぶに決まっている。


 だけど。

 『開門』という、言わば“星の悪戯”で離れ離れになった兎衣ういに、ここで「諦めてくれ」というのは酷が過ぎる。

 それを言う気概も無いし、そんな自分を弱いとも思うし、だけどそんな気概が欲しいとも思わない、実に複雑な感情を抱えたまま、彩人あやとは問う。


「――兎衣ういはさ、どうしてそんなに俺のことを慕ってくれるんだ? いくら結婚を約束したと言っても、10年以上も前の話だろ? それを忘れちまった俺が言うのもなんだけど、10年も会わなきゃ気持ちが冷めるのが普通じゃないのか?」」


「確かに、普通はそうかもしれない」

 否定はせず、しかし兎衣ういは告げる。

「実はボク、彩人あやとのことはずっと見ていたんだよ。この10年間、ほぼ毎日」


「は? どういうことだ? 異世界から……俺のことを見てた?」


「うん。異世界に飛ばされてすぐ、地球との外交に携わっている人と知り合いになってね。その人に頼んで、彩人あやとの部屋に監視カメラを設置して貰ったんだ」


「「……はい?」」


 彩人あやとのみならず、いちごも困惑。

 それをニヤニヤと眺めながら、兎衣ういは小走りで2人の前に出て、プレゼンするように両手を広げる。


「残念ながら、世界を跨いだ情報通信には色々と制限や問題があってね。監視カメラの画質は荒いし、音は完全に無音だった。でも、逆にそれがボクの想像力を掻き立て、彩人あやとへの想いを一層膨れ上がらせたのさ。いや~、あの監視カメラには本当に感謝しているよ。おかげで部屋に居る彩人あやとの行動を、ボクは“全て”把握出来ている」


「おい……おいおいおい、マジかお前、マジで言ってるのか?」


「マジで言ってるよ。ボクはいちご君よりも彩人あやとの性癖を理解している。例えば――」


「わー!!」


 周囲も吃驚な大声を上げ。

 兎衣ういの口を両手で塞ぐ彩人あやとと、何を想像したか茹蛸ゆでだこの様に一人赤面するいちご

 その顔色に感化されたか、横断歩道の信号が点滅して赤となり、足を止めた3人の前を大型トラックが「ブロロロッ」と通り過ぎる。


 遅れて風が吹き、舞った砂埃と共に過ぎてゆく時間が、3人の新しい日常。

 10年の時を越えて幕を開けた「三角関係」が、これから先の未来でどんな変化を起こすのか――それはまだ、誰も知らない物語。


              【序章】(完)

 ――――――――――――――――

*あとがき

【序章】の完読ありがとうございます。

ここまで見て頂けただけでも十分過ぎる程ですが、引き続き【1章】以降もお付き合い頂けると更に嬉しいです。


下記に【1章】で登場するヒロインのデザイン画を載せています。

*【デザイン画】はこちら ⇒ https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16818093076299939562


続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。


↓↓『☆☆☆』の評価はこちらから↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330659670005494#reviews

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