8話:医療 ~相手が女の子とはいえ不用心が過ぎる~

「ぐすッ……彩人あやと君が目覚めて良かったぁ~」


「悪い、心配かけた」


「心配かけ過ぎだよぉ~」


 下着姿のまま、涙目(鼻水あり)で彼氏に抱き着く少女:犬神いぬがみいちご

 赤羽あかばね彩人あやとは何よりも愛おしいその小さな身体を抱き締めつつ、その柔らかさと下着姿にドキドキしつつも、部屋の中央に居座る「勇者」へ視線を送る。


 ――場所は変わらず犬神いぬがみいちごの部屋。

 ベッドの上には彩人あやといちごがいて、中央に置いた勉強机の椅子に勇者が座る構図だ。


「とりあえず、話を聞かせて貰おうか? お前が女ってのはどういうことなのか。それにいちごの胸を揉んでた件についても」


「ふむ、説明するとそこそこ長いんだけど……どちらを先に聞きたい?」


「……いちごの胸を揉んでた理由」


 ちょっと気恥ずかしく、ぼそりと答えた彩人あやと

 それを受けた勇者は、どこか寂しそうな顔を返す。


「(やはり、ボクよりもいちごくんか……まぁ仕方ないけど)」


「ん? 何か言ったか?」


「いや、何でもないよ。それより、その件に関しては“医療行為”の一環だと言っておこう」


「医療行為? 何処かだ?」


「見ればわかるさ」


 言って、勇者がその胸に“炎を灯す”。


「なッ!?」


 焼身自殺でも図る気か。

 もしくは人体発火現象でも起きたのかと慌てた彩人あやとだが、当の本人は至って普通の表情で語る。


「“魂乃炎アトリビュート”:『生命歓喜せいめいかんき』――触れた対象の生命力を増幅させる異能の力だ。ボクはこの力を使って、昏睡状態の彩人あやとを目覚めさせようとしていたのさ」


「“魂乃炎アトリビュート”? 要するに超能力や魔法みたいなモノか?」


「その認識で構わないよ。“魂乃炎アトリビュート”を使用する際は、こんな感じで胸に炎が灯るものなんだけど、地球の一般人にはまだ知らされていない概念だね」


「なるほど、異世界にはそういう力があるのか。まぁそれなら納得――って、いやいやいや、おかしいだろ。その力が本物だとしても、対象は“触れた相手”なんだろ? 何で俺じゃなくていちごを触るんだよ。それも胸を」


「確かに、言われてみれば……」と、ここでいちごが同意。

 一通り泣いて瞳を赤く腫らした彼女が、彩人あやとの腕の中で「はて?」と首を傾げる。


「“勇者ちゃん”はね、私の胸を揉むことが彩人あやと君の回復に繋がるって言ってたの。病院じゃあ面会時間が終わるまで彩人あやと君にベタベタ触り続けて、終わったら私の胸を触って……コレってどういうことだったんだろう?」


「おいいちご、お前は何もわからず勇者に胸を揉ませてたのか?」


「だって~、勇者ちゃんが『彩人あやと君の為だ』って言うんだもん。女の子ってことも打ち明けてくれた後だったし、まぁ女の子ならいいかなって……」


「い、いちご……」


 いくら自分の為とはいえ、そして相手が女の子とはいえ不用心が過ぎる。

 今後は「俺以外に体を触らせるな」と後で強く言っておこうと心に決め、いちごと共に彩人あやとは勇者を見る。


 何故、いちごの胸を揉んだのか?

 彩人あやとを目覚めさせることに何か関係があるのか?


 そんな視線に対する勇者の答えは――


「いや~、その~、何て言うか……一度でいいから、大きな胸を揉んでみたくて」


「勇者ッ!?」「勇者ちゃん!?」



 ――――――――

*あとがき

 次話は「勇者が『妹』だと判明する回」です。

 タイトルでネタバレしているとはいえ、【序章】の核となる話なので是非ともお付き合い頂ければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る