2話:恋人 ~三角関係と三角関数は似てる~

 赤羽あかばね彩人あやと:4月生まれの16歳。

 高校入学から2カ月ほどが経過し、新生活にも慣れて来た彼の額には、10年前から“星形の痣”が残されている。

 父親曰く、神社で遊んでいる時に出来た痣らしいが、それ以前の記憶を失っている彼にそれを確かめる術は無い。


 そんな彩人あやとの隣には、いつも小柄な少女が人懐っこい犬の様にくっ付いていた。


 犬神いぬがみいちご:3月生まれの15歳。

 幼い頃から彩人あやとと一緒に居る幼馴染みの少女で、パッツン前髪にはお決まりの様に“星形のヘアピン”を装着。

 コレを「ペアルック」だと言い張る彼女の1学期中間テストの成績は、その言動の割に学年でもかなり上位の部類に入る。


 そして二人は――所謂「恋人」同士の関係性。

 

 彩人あやとの方から告白し、いちごが喜んで受け入れのが中学2年の夏。

 付き合いだしてからまもなく2年が経とうとしている今、幼い頃の「チュー」を除いても既に「接吻キス」は経験済み。

 ただし、そこまでだ。


『“この先”は、もうちょっと大人になってから……ね?』


 中学3年の夏。

 花火大会の帰り道、二人きりの神社でテンションの上がった彩人あやとによる1回目の挑戦は「失敗」。

 しかしながら完敗ではなく、「次回へ持ち越し」となっている状態のまま――二人は“今日”を迎えた。



 ■



「……なぁいちご、何か皆ざわついてね?」


 6月下旬、まもなく始まる朝のホームルームを前に。

 窓際の最後尾に座る彩人あやとが隣の幼馴染みへと声を掛け、いちごがグルリと教室を見渡す。


「そう言えば今日、“珍しい転入生”が来るんだって」


「珍しい転入生? この時期の転入生ってだけで十分珍しいだろ」


「だよねぇ~。一体誰が来るんだろ?」


 二人のみならずクラス全員でそわそわとする中、教室の扉がガラガラと開く。

 最初に入って来たのはクラスの担任、20代後半の女性教師。

 美人で優しく生徒からの人気も高い教師だが、今日ばかりは皆の注目が“その後ろに”集中している。


 静かなる喧騒ざわざわざわ……


 校庭に野良犬が迷い込んだ時みたいな「ワイワイ」とした騒ぎではない。

 密室殺人の容疑者が集まり、「この中に犯人が居ます」と名探偵に言われた時の様な、動揺と興奮の混じった騒ぎ。

 その理由は、主に“2つ”ある。


 1つは、十中八九「転入生」だろうその人物が、制服ではない浮いた服装をしていること。

 浮いた服装:日本では見慣れぬ民族っぽい衣装とマントを羽織り、しかも腰には「剣」を携えている。

 誰がどう見ても突っ込みどころしかない服装だが、それすらも抑えて目を引くのは転入生の“美少年”っぷり。


 2つ目の理由がコレ。

 美少年:イケメンの黄金比を極めたと言っても過言ではないルックスで、クラスの女子がうっとりと目を細めるのは、最早風に吹かれて草がなびくのと同じ。

 男子も男子でその圧倒的なイケメンっぷりを前に、嫉妬心を持つどころか頬を染め始める始末。


 何なら転入生を連れて来た担任の顔も朱を帯びているが、それを「コホンッ」と咳払いで誤魔化し、彼女が告げる。


「皆さん静かに。今日から皆さんの仲間になる転入生を紹介します。――それでは、自己紹介をどうぞ」


 担任から話を振られ、転入生が背中のホワイトボードを振り向く。

 マーカーを手に取り、キュッ、キュッと書かれたのは「漢字二文字」


「嘘だろ?」

「おいおいマジか」

「ってことは、あの転入生って……」


 クラスの皆が今一度ざわつく中。

 マーカーを置いて振り返った転入生が、見目麗しい唇を開く。


「はじめまして。異世界からやって来た『勇者ゆうしゃ』です」


 ―――――――――

*あとがき

 この【序章】は10話構成です。

 お時間ある方、残り8話お付き合い頂ければと^^

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る