少年冒険家と奇妙な村⑥




クリストファー視点



「えー!? ちょっと、お兄さん!?」


ギャリーが休んでいる間に少し目を離しただけだった。 視線を戻すとギャリーは机に顔を伏せ気持ちよさそうに寝ていたのだ。


「お兄さん、寝ちゃったの!? マジで言ってる!? お兄さん、起きてよー!!」


まだまだ遊び足りないクリストファーはギャリーの身体を揺らしてみせた。 だが起きる気配は全くない。


「それにここは外なんだけど・・・。 流石に僕一人じゃ宿まで戻れないよ・・・」


本当はギャリーを担ぎ宿まで戻りたいところだ。 だがクリストファーよりも身体の大きいギャリーを運ぶことはできないし、そもそも宿からかなり離れているため場所もよく分からない。


「もう、お兄さん僕一人で遊びに行っちゃうよ? いいんだね?」


そう言うも当然反応はない。 確かにお腹が膨れ眠気が到来しているが、まだまだ遊びたい欲求が勝っている。


「・・・仕方ないかぁ」


ここは人通りが少なくバッグもギャリーが肩から下げているため防犯的にも大丈夫だと思いここから離れることにした。


「折角知らない村へ来たんだもん! ギリギリまで満喫したいもんねー!」


そう言いながら笑顔で一人歩いていたその時だった。


「・・・クリストファー?」

「え? ・・・ッ、ベッキー姉さん!?」


そこには常にクリストファーを気にかけてくれているはずのベッキーがいた。 この村へ来ることを頑なに反対していたはずの彼女。 ただ姉といっても本物ではなく、年齢は母より少し若いくらいだ。

クリストファーが物心ついた時から傍にいていつも面倒を見てくれる心優しい女性。 里親というわけでも義理の親というわけでもなく、面倒を見てくれているだけの彼女。

それゆえにクリストファーからしてみれば感謝の念が強い。 とはいえ、忠告を破り村へ来てしまった以上ここで出会ってしまえば気まずかった。


「どうしてクリストファーがこんなところにッ!!」

「え、どうしてって、それは・・・」

「あれ程この村へ来てはいけないと言ったのに!!」


毎日ではないが週に一度は顔を出してくれるベッキー。 ベッキーがこんなに怒っているところは初めて見た。 だが驚くよりも反抗心の方が勝ってしまう。


「じゃあこっちも聞くけど、そんなことを言うベッキー姉さんこそどうしてこんなところにいるの!?」

「・・・ッ」

「この村へ来てはいけないって言った本人がどうしてここに!? それこそおかしいでしょ!!」


そう言って今来た道を戻っていく。


「ちょっと! クリストファー、待ちなさい!!」


そう言って腕を掴んできたベッキーの手を勢いよく振り払った。


「嫌だ!! もうベッキー姉さんの言うことなんて信じられるかッ!!」


走ってベッキーから離れていく。


―――酷い・・・。

―――酷いよ、ベッキー姉さん。


裏切られたような気がした。 確かに『行くな』と言われていたため来てしまった自分が悪いのだが、ベッキーの言っている意味が分からず感情がぐちゃぐちゃになった。


「小さい頃からずっと一緒にいたのに・・・」


感情的になって涙目になった。 そして目から涙が零れ落ちそうになったその時だった。


「あの」

「・・・え?」


見知らぬ警備員に立ち塞がれた。 警備員にお世話になる理由が思い当たらず適当に謝ってしまう。


「あ、ご、ごめんなさい。 僕、何か悪いこと・・・。 あ、大声を出したことなら」

「先程ベッキーとお話をしていましたよね?」

「? そうですけど・・・」

「貴方とベッキーはどのようなご関係で?」


その言葉にクリストファーは首を傾げた。 何故そのようなことを聞かれるのか全く分からなかったからだ。



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