少年冒険家と奇妙な村⑤




「どこかお店に入って食べる?」

「ううん! たくさん食べたいから食べ歩きしたい!」


クリストファーの提案で出店を求めて歩く。 田舎ではあるが意外にもお店が営業していた。


「あ、ソフトクリーム屋さんだって! 僕が買ってくるからお兄さんはここで待ってて!」

「初っ端からソフトクリームか・・・」


デザートに食べたいところだが、クリストファーはもう並びに行ってしまったため止めることはできない。 しばらくすると二つのソフトクリームを持って戻ってきた。


「はい、これ! お兄さんの分!」

「ありがとう。 って、何その形!?」


ソフトクリームは真四角になっていた。 コーンも四角形のため随分ずんぐりむっくりとした様子でボリュームも多い。 初っ端にこれを食べるとなかなかにお腹が膨れそうだ。


「アイスクリームならまだしもソフトクリームで四角形を保つのは大変だろう・・・」

「突っ込むのそこ!? でも四角形ってやっぱり面白いね。 オススメを聞いたらこれを渡されたよ」

「へぇ。 ゴマ味とか・・・?」


あまり見たことのない灰色のソフトクリーム。 一口食べ思わず吐き出してしまった。


「ッ、な、何これ!? 俺口の中噛んだ!?」


一気に口の中に血の味が広がったような気がした。


「お兄さん、大丈夫? これは鉄味だって」

「て、鉄味・・・!? それがここの名物?」

「最初は躊躇ったけど折角来たなら現地のものを食べたいなと思ってさ」


それはギャリーも同じなため理解はできる。 クリストファーもソフトクリームを口にした。


「ぅ・・・。 ぼ、僕このソフトクリーム単体では食べられないかも。 他のものも買ってこよう!」


そういうことでクリストファーは食べかけのソフトクリームをギャリーに渡し次の屋台へと向かった。 そしてまたもや四角いものを手にして持ってくる。


「お兄さん、はい! ドーナツだよ!」

「また甘いもの・・・。 というか穴の空いたドーナツなのに真四角って変わってるね」

「きっとこの村は全ての食べ物が四角なんだよ。 ほら!」


辺りを見回してみるとおにぎりが四角だったり、サンドウィッチが真四角だったり。


―――まぁサンドウィッチは普通か。

―――四角が好まれているっていうだけで、意図的に変わったものを作っているわけではないのかもしれない。


そこで偶然楽しそうに遊ぶ子供たちを発見する。


「おーい! ボールはここだぞー!」

「待て待てー! ボールを返せー!!」

「ゴールだ! シュートッ!!」


かけ声的にサッカーをやっているようだった。 だがどこを見てもサッカーボールが見当たらない。


「あの子たちは一体何をして遊んでいるんだろう?」

「さぁ・・・?」


クリストファーと見据えていると子供たちは同じ方向へ走っていくわけではなく別々の方へと走っていった。


「・・・何かおかしくない? サッカーはサッカーでもみんな一緒じゃなくてそれぞれ一人で遊んでない!? エ、エアサッカー?」

「見た感じそうみたいだね。 面白そう、とはとても思えないけど、もしかしたらボールの類がないのかもしれない。 なんせボールって丸いから」

「な、なるほど・・・」


クリストファーが惚けたように子供たちを眺めているとソフトクリームが垂れて地面に落ちてしまった。


「ヤバい! お兄さん、早く食べなきゃ!!」


この後は新たに買った飲み物で上手いこと味を誤魔化しながらそれぞれを完食した。 鉄の味も初めて口に入れた時は無理だと思ったが、食べていると慣れてくるものだ。

ただ慣れてきても美味しいと感じるのかは別のお話で、飲み物をがぶ飲みしたからか手洗いへ行きたくなる。


「お兄さん、トイレ・・・」

「それならあそこにあるよ」


二人で公衆トイレへと向かうが男子トイレに入った瞬間驚いた。 どこへ行っても悉く小便器が高所に設置してあるのだ。


「何これ、どうやってしたらいいの!?」


困っていると村人が男子トイレに入っていった。 彼は天井に備え付けられた棒に掴まりながら用を足している。


「ど、どういうこと・・・? 流石におかし過ぎるって!」


そんなことできるわけがない。 やろうとすれば小便器から盛大にぶちまけてしまうのは目に見えていた。


「宿屋も同じなのかな?」

「お兄さん、僕もう我慢できないよ!」


チラリと隣の女子トイレを見る。 女性用は個室が用意してあるようだった。


「女性用のトイレは普通なのかも。 そっちを使えないか聞いてみる!」

「あぁ、それがいいかもしれない。 だけど男で大きい方をしたくなったら一体どうすればいいんだろう・・・」


近くにいた警備員に自分たちは観光客だと話し特別に女子トイレを使わせてもらった。 色々なことに驚かせられながらも夕方になる。

歩き疲れて外のテーブルで休んでいると元々寝不足だったというのもありギャリーはいつの間にか眠ってしまっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る