少年冒険家と奇妙な村④




新聞に書かれている記事はほとんどこの村のことばかりで、どうも村独自の新聞だと分かった。 それは問題ないのだが、村の話で事件がそれ程あるわけでもなく書かれているのは他愛のないことばかり。

そろそろ追加注文でもするかと考えたところ、メニューに目を通していたクリストファーが提案してきた。


「お兄さーん! ここのお店はほとんど飲み物しかないみたい! 違うお店で何か食べない?」

「あ、うん。 そうだね」


会計を済ませ二人は外へと出た。 澄んだ空気を感じながらギャリーは遠くを見る。


「そもそも今起きている誘拐犯と昔娘さんを攫った誘拐犯って同じ人なのかな・・・」


心で思っていたことがつい声に出てしまったようだ。


「え、何? 何かお兄さん、探偵みたいだね。 その事件に興味あるの?」

「え?」


興味がないと言えば嘘になる。 ただギャリーは探偵ではないし、それを解決する必要性はない。 当然であるが、時間は限られていていつまでもこの村にいられるわけではないのだ。

それはクリストファーも同じでこの村の雰囲気を味わうためにここへやってきたはずである。


「あ、いや別に! 折角この村へ来たんだし満喫しようか」

「うん! そうこなくっちゃ!!」


その言葉を待っていたかのように笑顔を見せるクリストファー。 その前にこの村の端はどうなっているのか気になり端へと歩くことにした。


「この村へ入る時もそうだったけどやっぱり木の壁で囲まれているんだね」


といっても2メートルくらいの高さでよじ登ればどこからでも出入りができるくらいだ。 丁度この村の人々は見えないが建物だけが見えるという不思議な感じだった。


―――動物避けくらいの感じなのかな?

―――でも、入場料を取られたしなぁ・・・。


「わー! 見て、お兄さん凄いよ! 木がいっぱいだー!!」


クリストファーは近くにあった岩に乗り村の外を見ていた。


「そりゃあ、そうだろうね」


と思いつつも興味のあったギャリーもクリストファーが乗っている岩を少し借りて外を見てみた。 遠くからでも周りが木だらけということは分かる。

自分たちが通ってきた普通の森であるが、森の中にひっそりとたたずむ村というのが新鮮でよかった。


「ちょ、ちょっと、お兄さん! あれ見てよ!!」

「うん?」


突然クリストファーが驚きの声を上げた。 指差す方向に一人の髪の長い女性が数人の人を押し車で運んでいたのだ。 皆ぐったりしている上に周囲を気にかけているようでどう考えても普通ではない。

眺めているうちにその女性は森の奥へと消えていってしまった。


「何をしているんだろう?」

「あの人が人を攫う誘拐犯なんじゃない!?」

「まさか・・・ッ! こんな昼間から堂々と!?」

「運ばれていった人は気を失っているのか無抵抗だった! 助けにいかないと!!」


そう言って急いで村を出ようとするクリストファーを引き止めた。


「ちょっと待った!! そんな無警戒に行っては駄目だ! 相手が本当に誘拐犯だったらどうする!?」

「でも!」

「それに俺たちが向かったところでどうしようもない」

「じゃあ見つけたのに放っておけって言うの!?」

「せめてこの村の上役の人に報告しよう。 俺たちはこの村の住民じゃない。 下手に動かない方がいい」


そう言うとクリストファーは肩を落としながらも頷いてくれた。


「・・・そうだね。 それがいいかも」


二人は村の入口にいる警備員を通し上役に会いにいった。 流石に村長には会えなかったが、今日訪れたばかりの二人の話でも聞いてもらえた。


「情報をありがとうございます」

「いえ。 早く犯人を見つけられるといいですね」


話し終えると二人はやることがなくなった。 気になるのはこの村の入口と思われるのは入ってきた一ヶ所だけ。 そこから出入りするとなると当然警備の人間に見つかるはずだ。


「これで僕たちのやることは終わりかー! 犯人を捕まえたかったけど、まぁいいか」

「俺たちは探偵でこの村へ来たわけじゃないんだから」

「そういうお兄さんは興味津々で探偵っぽかったけどね?」


気になる点はいくつもあるが、自分で言ったようにギャリーは探偵でも警察でもない。 冒険が好きと言ってもただの子供に過ぎないのだ。

これからどうしようか話し合おうとすると近くから話し声が聞こえてきた。 どうやら丁度行方不明だった人が帰ってきたようだ。


「アンタ!! 今までどこへ行っていたの!?」

「はは、ごめんごめん」

「もう心配したんだから!」

「気付いたらここにいたんだよ。 どこへ行っていたのかは記憶になくて」

「みんなそう言うのね・・・。 そう言えば前よりも元気になるって本当?」

「あぁ、噂通りだよ! もう身体が軽くて軽くて!! 見て!」


そう言ってジャンプしてみせている。 そのやり取りをギャリーたちは眺めていた。


「さっきの誘拐犯が他の人を連れ去ると同時に返しに来たのかな?」

「どうだろう。 誘拐犯は二人いてそれぞれに誘拐する役割と村に返す役割で分かれているのかもしれない」

「何それ、一体どんな意味があるんだろう? しかも犯人は女性だったし」

「身長的にも大人ではなかった・・・。 というかさっきの人が本物の犯人の前提で話しているけど、まだそうと決まったわけじゃない」


考えているとクリストファーのお腹が鳴った。


「あー、もうお腹が空いたよ! って、お昼の時間過ぎてんじゃんッ!! お兄さんご飯食べよう! ご飯!!」

「そうだね。 もう俺たちはやることがないしこの村を探険しよう」


そういうことでようやく二人にこの村を満喫する時間がやってきた。



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