少年冒険家と奇妙な村③
唖然としながら電話を切るとクリストファーが近付いてきた。
「電話の内容が聞こえてきたけどベッドがあのプールって本当?」
「・・・あぁ、本当らしい」
「おかしな村だね」
「・・・」
やはりクリストファーにとっても寝るところがプールだなんて有り得ないようだ。 今まで旅してきた中で寝る時はベッドか床に敷物を敷いたりであった。 だから寝床がプールだなんて今回初めてである。
「そう言えばプールの水を触ってみたよ。 何かトロリとして油みたいだけどサラッともしていて気持ちがよかったよ」
「・・・そっか」
「・・・お兄さんどうしたの? やっぱり帰りたいとか言う?」
口数が少ないギャリーに違和感を持ったようだ。 不安気に聞いてくるクリストファーにギャリーは笑顔になって言った。
「いいや! とても楽しい村じゃないか!!」
「え?」
「俺はこの村がとても気に入ったよ! これからの冒険が楽しみだ!!」
「お兄さんも変わっているね・・・」
少し引きつった表情を見せるクリストファーをよそにギャリーはバッグからノートを取り出した。 この村についてメモをし始める。
これはどんな行先でも必ず行っていて、一日の終わりには全てをまとめた日記をつけている。 所謂冒険日記である。
「本当に冒険が好きなんだ」
ノートを横から覗き込んできたクリストファーがそう言った。 内容に興味がありそうだったが、メモを取り終えたギャリーはすぐにでも外を散策しに行きたかった。
「早く外へ出よう! まずはこの村の雰囲気を感じたい!!」
そういうことで二人は外へと出た。 丁度喉も乾いていたため近くのカフェへと入る。 店内は至って普通でテーブルと椅子が綺麗に配置してあった。
「店員さんも丁寧でお店の雰囲気も温かいな」
現地の雰囲気を体感しながら注文し待つこと数分。 頼んだ飲み物が出てきたがそれを見て驚いた。
「何これ!? お洒落ー!!」
店員が持ってきたものは四角いコップだった。
「へぇ、四角いコップなんて珍しい・・・」
興味津々にコップの形を眺めた後注文した紅茶も口にした。 中身は至って普通な美味しく冷たい紅茶であったが、とにかく四角いコップが持ち辛いし飲み辛い。
今まで何故コップが円柱状なのか考えてもみなかったが、この飲み辛さなら納得できる。 そう思ったのだが周りの客たちはコップに不満を持つことなく器用に四角いコップを持っていた。
その時興味深い話が近くの席から飛んでくる。
「まだ村長さんの娘さん、見つかっていないんですって?」
「本当に不気味よねぇ。 一体どこへ行っちゃったのかしら」
その会話をクリストファーも聞いていたようだ。
「何か大変なことになっているみたいだね」
「うん・・・。 タイミングが悪い時に来ちゃったかな」
村長の娘が行方不明となればかなりの一大事だ。 だがそれにしては村の雰囲気は穏やかに思えた。
―――娘さんが行方不明っていつからだろう?
ふとした疑問だが一度気になり出すと考えを止められない。 そこでクリストファーに尋ねてみた。
「クリストファーは娘さんが行方不明っていうことを知ってた?」
「いや? 今初めて聞いたよ」
―――こういった閉鎖的な場所だと村長さんの権力はかなり高いはず。
―――その娘さんとなれば同様に村の皆から一目置かれているだろう。
―――本来はもっと捜索隊を出しているはずだ。
―――捜索願を出しているならクリストファーが住んでいる隣街にまで情報が届いてもおかしくないと思うんだけど・・・。
「出していないということは行方不明になって間もないのかな」
―――それとも公にはしたくない秘密があるとか?
―――娘が心配じゃない親なんているのかな。
「え、何? 娘さんの話?」
「まぁ」
「気になるの?」
「少しは・・・。 そうだ、この村に新聞とかないのかな?」
「さっき受付にあったけど」
クリストファーに新聞のある場所を指差されギャリーは購入しに行った。 席へ戻りクリストファーと一緒に新聞を覗き込む。
「娘さんがいなくなったのは15年前だって!?」
「産まれた時に誘拐されたみたいだね。 もう15年も経っていたら見つけても分からないんじゃ・・・。 酷い話だね」
「なのにどうしてこの村にしか情報がいっていないんだろう・・・。 クリストファーが若過ぎて情報を知らないとかないよね? 流石に今でも騒がれているだろうし・・・」
疑問に思い考えているとクリストファーがもう一つ興味深い記事を指差した。
「お兄さん、見て。 これも奇妙な事件じゃない?」
どうやら数年前からこの村の人が頻繁に行方不明になるらしい。 だが数日後に何事もなかったかのように戻ってくる。 その数日間何をしていたのか尋ねるも全く憶えていないとのこと。
「誘拐された人は戻ってくるけど娘さんは戻ってこないのか・・・」
「犯人は一体何をしたいんだろうね? 誘拐をして元に返してを繰り返すなんて。 娘さんも誘拐したなら返せばいいのに」
「・・・そうだね」
この村は規則や生活習慣だけでなく事件までもが奇妙だったのだ。
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