少年冒険家と奇妙な村②
村へ向かいながらギャリーは確かに道案内がなくては無理だったと分かった。 地図に載っていない村ということで当然整備された道はなく、直線で向かおうとすれば大きな谷に阻まれてしまう。
すれ違うのがやっと程の大きさのトンネルというには原始的な抜け穴を通っていく。 足場の悪い岩場を抜け、平坦な場所に差し掛かったところで気になったことをクリストファーに尋ねてみた。
「村が気になるなら一人で行ってみればいいのに。 確かに険しいとは思うけど行こうと思っていけない道程じゃない」
「行きたくても姉さんが止めるんだよ。 あの村へは行くな、って」
「・・・? そうなの? さっきもそれっぽいことを言っていたけど、今から行くところって危険な村!?」
今更怖くなるがクリストファーは笑顔で首を振っていた。
「行くな、って言われたから僕も同じようにしただけ。 危険な場所だったらテレビ局が放っていないって」
「確かに・・・。 クリストファーはいいところのお坊ちゃんだったりしないよね?」
「ないない! 見てよ、この身なりを!! どうしてそう思ったのさ?」
「遠くへ行かないように、って言われているのなら余程大切にされているのかなって」
―――お坊ちゃんを連れてきたら大変なことになっていただろうからな・・・。
―――それにしても危険な村、か。
―――少し怖い気もするけどより興味が湧いてきた!
「そういうお兄さんはどうしてあの村へ行きたいの?」
「俺は冒険するのが好きでね。 地図に載っていない村だなんて気になって仕方ないだろ?」
自分のことを話しながら歩いていると目的地である村へと辿り着いた。 村の入り口は一つしかなく厳重に守られているようだった。
そこには門番のような人が立っていて、ジッと二人を観察していた。
―――こんな村に外から人がやってくることなんてあまりないだろうに、わざわざ見張りを立てる必要なんてあるのかな。
ギャリーもガードマンのようなバイトをしたことがあるが、基本的には退屈で時間が経つのが遅いと感じる仕事だった。
もちろんそれは必要だから行うのであってこの村にそれが必要だとは到底思えなかった。
「この村へは何の御用で?」
「か、観光で」
「観光ですか。 身分証の提示をお願いします」
こんな田舎村に身分証の何が役に立つというのだろうか。 そう思いながらも、ギャリーとクリストファーは身分証を見せた。
「ギャリーさんはオロバレーからお越しなんですね。 結構遠いところから」
「はい、電車を乗り継いできました。 この村が気になって来てみたかったんです」
「そうですか。 クリストファーさんは隣街に住んでいるようですがギャリーさんとはどのようなご関係で?」
「あー、僕の兄ちゃんなんだ! 今は違うところで暮らしてあまり会えないけど今でも頼りになる兄ちゃん!!」
そう言ってアピールするように腕を組まれた。 仕方ないがこの嘘に乗ると門番は入場料を支払うよう促してきた。 どうやら村へ入るためには一人1000円が必要らしい。
「え、お金取るの?」
「別に払わなくても構いませんが、その場合は残念ながらお帰りくださいと言うしかありません」
「マジかー・・・。 分かった、二人分俺が払うよ」
「え、いいの?」
「もちろん。 可愛い弟のために入場料くらい出してあげるさ」
「ッ!」
どうやらクリストファーは自分が言い出した兄弟設定を忘れていたようだった。 二人分のお金を払うと門番はあっさり通してくれる。
「観光客として節度を守った行いを心がけてください」
お金を受け取ると一転して笑顔で入れてくれ二人は村へと一歩を踏み出した。 いや、踏み出そうとした時だった。
村をぐるっと囲う壁のようなものの外側、少しばかり離れた場所に大量の墓が建てられているのを発見した。 人の生活があれば死者を弔う風習があるのは普通だ。
だが村の規模にしてそれはあまりにも多いような気がした。 それに一般的なものに比べると大分簡素な作りだ。
「凄い量のお墓だね。 少し怖くなる程」
「まぁお墓は壊したりしなければどんどん増えていくものだから、多少多くてもおかしくはないんじゃない?」
クリストファーはそれ程気にしたようでもないが、ギャリーは何故か気になった。 とはいえ、別に誰か知り合いが眠っているわけでもなく調査しようとは思わない。
とりあえず頭の片隅にでも置いておこう、それくらいにして村の入口へ目を向けた。 それを合図にしたようにクリストファーが駆け出していく。
「わー! やっと入れたよ! ここが姉さんが言う危険な村なのかー!!」
クリストファーはご満悦だ。 見た感じ森に囲まれているため自然が多く、雰囲気も悪くなさそうだった。 荒れている家や廃屋なんてものは見当たらないし、道も田舎にしては整備されている。
ここまで道路がなかったのに村の中はしっかり道路が通っているのだ。
―――危険って勝手に予想しただけだったし、ただ単に地図から漏れていただけなのかな。
―――とはいえ、まだ入り口から見た第一印象でしかないけど。
「ねぇ、お兄さん! 早速探索しようよ!!」
「あぁ。 でもその前に宿から探そう。 荷物を置いて身軽な状態で動き回りたいから」
「それもそうだね!」
意見は一致し早速この村の人との交流を試みた。 適当に近くにいる人を尋ねてみる。
「すみません。 この近くに宿屋ってありますか?」
「宿屋を尋ねてくるなんて! すぐそこにあるわよ。 案内してあげる」
最初の言葉が気になったが人当たりのいい人に尋ねられたようだ。 本当にすぐそこに宿泊施設があり、礼を言ってギャリーたちは受付へと向かった。
「あらまぁ! お客様なんて久しぶりだわ!!」
拍手をして喜ぶ受付のお姉さん。
―――・・・観光客が少ない?
―――入場料を取っているからなのかな。
そのような疑問を感じつつ受付を終えた。 二人で一緒の部屋の方が安いということでクリストファーとは同じ部屋になった。 もらった鍵で部屋のドアを開けると中は至って普通のホテルと変わらなかった。
「普通に綺麗な部屋だ!! 何だよ、危険な村じゃ全然ないじゃんッ!!」
そう思ったのも束の間、入り口から中へ入るにつれ異様な光景が広がっていた。
「ねぇねぇ、お兄さん! プールがあるよ!!」
「え、本当に?」
「泳ぐにはちょっと狭そうだけどね」
―――・・・ベッドがないけどまさかね。
―――だけど見れば見る程人が一人丁度入れそうなプールが二つ・・・。
「値段は安かったのにプール付きだなんて凄いね。 ほら見て、バスタオルもたくさん用意されてる!」
クリストファーが指差す方向には確かにバスタオルが何枚も積み重なっていた。
「確かに・・・。 って、うわ、何だこれ!? 飲み物なのかな?」
普通のホテル同様に冷蔵庫のようなものが設置されていたのだが、中はとても飲み物が冷えるような温度ではないし入っているものもどこか奇妙だ。 大きな缶ジュースのようであるが、プルタブがない。
辺りを探してみても缶切りのようなものも見つからなかった。
「お兄さん、僕たちはどこで寝ればいいの? まさか床で寝るっていうわけじゃないよね・・・。 ソファも一つしかないし」
「ベッドがなければ寝具もないのか。 何かの手違いかな」
―――流石に受付に電話してみるか・・・。
ただクリストファーは遠出自体が楽しいのか、窓から外を眺めたりと部屋の中を見て回っている。 そんな中受付に電話をし確認した。
「寝るところでございますか? 容器に入った液体がお部屋にありません?」
「プールのことですか? 確かにありますけど・・・」
「あるじゃないですか!」
「え? いや、俺が聞いているのはプールじゃなくてベッド・・・」
「冷たかったりしたら温度調整をしてもらって構いませんよ。 空調の隣に調整のリモコンがありますので」
「・・・それ本気で言っています?」
受付のお姉さんは冗談で言っている様子はなく真面目だった。
「いや、水の上で寝るとか溺れますよ!? 本当にプールがベッド代わりなんですか!?」
「リラックスしている状態で寝転がれば気持ちよく浮くので問題ないですよぉ」
「そういう問題じゃ・・・」
―――だからあんなにバスタオルがあるのか・・・!
―――通りでお客さんは来ないわけだ。
―――いや、おかしいと思うのは俺だけでこの村が正解?
―――きっとこの村の人にとってはこれが普通なんだし・・・。
ギャリーは新しい地へ行くとその地のルールに従って過ごしてきた。 だから今回もそうすべきなのだ。 他にも色々と説明を聞いた。
―――それにしては変わり過ぎていると思うけど、どの説明を聞いても荒唐無稽に聞こえちゃうんだよな。
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