少年冒険家と奇妙な村
ゆーり。
少年冒険家と奇妙な村①
暗い小屋裏に橙の光が照らす。 所狭しと置かれた物は他人にとってはガラクタでもギャリーにとっては宝物。 それでも長い時間それを眺めることがなかったのは新しい生活に慣れ始めていたからだろう。
「ほらメアリー、もう寝る時間よ。 お父さんとお部屋へ戻りなさい」
「はーい!」
妻と娘の声が聞こえ自分の仕事が迫っていることを知る。 小屋裏を片付け新たな思い出の収納スペースを作ろうと思っていたが、どうも今日は叶わなそうだ。
はしごを降りたところで娘のメアリーが出迎えた。
「お父さん、何をしてたの?」
「ちょっと片付けをしようと思ったんだ」
「ふぅん。 ねぇ、私もはしご登ってみたい!」
「今日は遅いからまた今度な」
「えー・・・」
「その代りといってはなんだが、上に仕舞われている父さんの宝物についての話をしてあげよう」
「宝物?」
小首を傾げるメアリーが愛おしく、はしごを仕舞うと抱き上げた。 8歳になるメアリーは随分と重くなったと思う。 ただ成長すれば父親離れしてしまうかもしれないと思うと少し物寂しい気持ちにもなる。
メアリーを肩車しながら子供部屋へと向かった。
「もちろん、いつも通り本を読んでほしかったらそうするけど」
「ううん。 お父さんのお話が聞きたい!」
メアリーが寝る前は本を読んで聞かせている。 それが日課だった。 メアリーはベッドに潜り込みギャリーは椅子を持ってきて腰をかけた。
「宝物にも色々な話があるんだけど、子供の頃のちょっと変わった冒険の話をしてあげようか」
「楽しみ!」
「これでも父さんは冒険心のある好奇心旺盛な子供だったんだ」
ギャリーは昔を思い出しながらメアリーに優しい口調で物語を語り始める。
15歳の頃のギャリーは活発でとにかく冒険が大好きな少年だった。 連休があれば一人で旅に出て色々な地を巡る。 そのために簡単なバイトをして費用を貯めていたし、体力作りなどもしていた。
時には命の危険が迫るようなこともあった。
―――今日向かう場所は遠いから朝早くに出発。
―――おかげで眠いなぁ・・・。
連休を迎えたギャリーは事前に調べた目的地を目指し移動していた。 移動手段は多岐に渡り、徒歩や自転車を使うこともあれば電車やバスなどの公共交通機関を使うこともあった。
この時は電車で最寄り駅まで来てから徒歩という手段を選択した。
「えっと、場所は・・・」
持参している地図を確認。 やはり今回向かう村は地図に記されていない。 そのような場所を何故ギャリーが知っていたかというと、奇妙な噂話を聞いたため。
地図に載っていない集落があり、そこでは奇妙な出来事が起こっているというのだ。 好奇心がくすぐられギャリーにとって行かないという選択肢はなかった。
「さて、ここまでは予想通り。 見たところこのまま向かえなさそうでもないけど、念のため聞き込みでもしてみようか」
今いるのは目的の村の隣街だった。 この街は以前にも来たことがあり、大きな建物が多く文化も発達していると思った印象のいいところだ。
「あのー」
「はい?」
街で偶然通り過ぎようとした少年に話しかける。 年齢は15歳のギャリーよりは下に見え、身長も10センチ程低い。 中性的な顔つきだが服装からして男の子だろう。
「行きたいところがあるんだけど場所分かるかな? ここなんだけど・・・」
持っていた地図を見せ指差した。 だがそこには何も記されていない。
「あー・・・。 地図にない村のことだね。 お兄さん、何か用事でもあるの?」
「いや、ちょっと興味本位で行きたいと思ったんだけど」
「興味本位、ね。 確かにそういう人はたまにいるらしいけど、止めておいた方がいいんじゃない?」
「え、何かマズいことでも?」
「好奇心は猫をも殺す、って言うでしょ。 あまり部外者が首を突っ込まない方がいいと思うけど?」
その言い草が妙に気になった。 そして同時にギャリーの好奇心がゾクゾクとそそられる。
「何があってもいいと覚悟はしている。 たとえ危険に巻き込まれたとしても自己責任だって」
「ふぅん・・・。 分かった、じゃあ案内してあげるよ! その代わりに僕も一緒に連れていってくれない?」
「え?」
少年はキラキラとした目でギャリーのことを見つめてきた。
「お願いだよ! 道案内をするから僕も連れてって!」
「いや、でも、さっきは散々止めておけって」
「中途半端な覚悟なら止めておいた方がいいって思ったのさ。 でもお兄さんが絶対に行くって言うなら、僕も行きたい! ずっと気になっていたから」
『気になるなら隣街で近いんだし行けばいいじゃないか』 そう返そうとしたのだがあまりにも少年の勢いが凄く言葉を飲み込んでしまった。
「この通りッ! お金はちゃんと自分で出すしお兄さんの邪魔はしないからさ!!」
そう言って頭を下げ両手の平を合わせてくる。
―――俺の旅にこの少年も付いていきたいと言っているんだよね?
少年の年齢もあり快くは頷けない。
「でも流石に親御さんが心配するんじゃ・・・」
「大丈夫! たったの一日くらい家に帰らなくても平気さ! お兄さんは名前なんて言うの?」
「ギャリーだけど・・・」
「僕はクリストファー! 僕なしで村へ行くのは難しいよ? 実際に試してみたら分かると思うけど、案内なしで行くのはまず無理だ。 それに他の人に頼んでも無駄だよ。
村のことを知らない可能性は高いし、ましてや道案内なんてもってのほか! それに道案内以外でも何かあった時は役に立つと思うよ」
―――・・・別に一人旅をするのが好き、というわけじゃないからいいか。
―――俺もぶっちゃけ未成年だしこの子に何かあった時の方が心配だけど、しっかりしていそうだし大丈夫かな・・・?
知らない地へ行きそこの文化や食べ物に触れ学んで満喫する。 それが本来の目的のため人が増えても構わなかった。
―――誰かと一緒に旅をするなんて初めてだし面白そうだ。
そう前向きに捉えた。
「分かった、いいよ」
「やったぁ! ギャリー兄さん、よろしくねッ!!」
そういうことでクリストファーは一度家へと帰り荷物を持って二人でこの街を出た。
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