頼義、子四天王に出会うの事(その六)
頼義はその言葉に胃の腑が重くなるのを感じた。憧れの英雄たちの
しかし、それでも頼義はここで諦めるわけにはいかなかった。このまますごすごと屋敷に帰れば、「それ見たことか、所詮は
「どうしても、どうしても叶いませぬか」
「だめだね、
金平はにべもなく突き返す。
「なぜ!?」
「なぜも何も、わかんねえのかよ」
頼義は唇を固く噛みしめた。
「それは、私が『女』だからですか」
「……」
四人はお互いに目をそらして沈黙する。少なくとも「そんなことはない」と頼義の言を否定する態度ではない。
「その能力も、資質も、力も、何一つ試されることなく、ただ『女』だという一点のみをもって私はその価値を否定されてしまうのですか!?」
込み上げてくる涙を、頼義は必死に抑えてなおも言った。
「私が、女でさえなければ……」
「い、いや頼義殿、拙者らはそこまで……」
季春がなだめようと努めて明るく振る舞う言葉に覆いかぶさって
「そうだ、お前さんが女だからだ」
金平は言い放った。
「女はすぐ泣く、甘える。言い訳する。何より非力で戦場では役に立たん。お前さんに俺らの上司として居座られても迷惑なだけなんだよ」
「金平、何もそこまで言うこと……」
見かねて咎める竹綱を金平はジロリと一瞥する。その眼光にやや怯むものの、それでも負けじと竹綱は睨み返す。坊ちゃん然とした見た目に反して存外に向こうっ気が強いところがあると見える。
頼義はうつむいて黙り込んだ。長い間沈黙を続けていたがやがて
「わかり……ました」
とつぶやいた。
その言葉を聞いて四人の中にようやく「やれやれ」といった雰囲気の空気が流れた。その解けた緊張を無視するかのように頼義は言い放った。
「ならば、私と、勝負して下さい!」
四人の目が丸くなった。一瞬この娘が何を言っているのか反応に遅れるほどに、それは予想外の返事であった。
「すぐに泣くと言いましたね、甘えると、言い訳すると。非力な女は戦場では役に立たないと。ならば、お見せしましょう、この頼義が戦さ場でも決して皆様に遅れを取る事などないと!」
「……娘、何を言っているのかわかっているのか」
貞景が問い詰める。彼女の言葉は些かこの武人の持つ
「もちろん。私も武門の子として幼き日より武芸百般、日々の鍛錬を欠かしたことはございません。ただ『女』というだけでなめてかかりあざ笑うあなたたちになど、決して遅れを取りはいたしません」
「……」
そう言い切って頼義は仁王立ちになって四人を睨みつけた。膝が震えるのは恐怖からなのか怒りからなのか、もはや本人にもわからない。再び長い沈黙が訪れた。やがて
「いいだろう、庭に出な」
金平が言った。
「え?」
「勝負してやるよ。
そう言いながら金平は庭先へ降り、上着をはだけた。細身ながらも鋼の鞭をより合わせたような引き締まった筋肉で鎧われた裸身を晒して、金平は足で地面を引っ掻いて円を描き、その円内の端に寄ってすとんと
「来いよ。相手してやる」
金平は相撲で勝負をしようと誘っているのだ。
頼義は一瞬息を飲んだ。金平は微動だにせず蹲踞の姿勢のまま頼義を待ち構えている。
頼義はなおも少しためらったが、ついに意を決して庭へ降りた。そして、下ろしたてのまだ皺一つない
はだけた裸身は
竹綱は「わっ」と小さくうめいて背を向けた。季春はただでさえ長い鼻の下をいっそう長く伸ばして前屈みに凝視していたところを貞景に小突かれた。土俵の輪の中に入った頼義は、それでもしっかりとした姿勢で構えた。
「合図は」
「好きに来い」
短いやり取りの後、ひと呼吸、ふた呼吸と二人の息の音だけが響いた。深く、四つ呼吸をしたのち、頼義は
「やああああああ!」
と裂帛の気合をもって金平に飛びかかった。金平は頼義の頭を無造作に掴むと、一切の容赦なく地面に叩きつけた。
勝負はあっけなく終わった。頼義の完敗である。それは当然だろう。背丈は一尺半ばも違い、体重にいたっては倍は差があろう。ましてや金平の家の坂田氏は「
「ま、まだ……」
頼義は諦めなかった。
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