第3話 窓際
それから数週間が経ち夏休みに突入した。
しかし高校三年生の夏休みは遊んでばっかと言う訳には行かない。それぞれ進むべき道に向けて備える必要があるからだ。俺は家でも勉強するようにしたが、結局過去問なども簡単に解けてしまう。涼香も俺の家に来たりして勉強会を開くなどして勉強をしていた。
「なあ、涼香。どっか行かないか?」
「どっか?」
「やっぱ、ずっと勉強ってのもキツイだろうし息抜きというか。」
「いいよ、どこ行く?」
「そこの川の花火大会行かないか?いや、でも花火って別に家からでも見れるか」
「いいね!花火見たい!」
「いいのか?」
「うん!私も家からしか見たことなかったから」
家の近くの川で毎年開催されている花火大会。正直家の窓から見えるが生で見るのも良いのかも知れない。
「いつだっけ?」
「ええと、来週の土曜だな」
「来週の土曜……」
涼香がスケジュールを確認する。恐らくライブか何かと被ってないかの確認だろう。
「大丈夫そうか?」
「うーんとね。花火大会って夜だよね?」
「そうだな」
「じゃあ大丈夫そう。昼間にライブあるけど間に合いそうだから」
「ほんとに大丈夫か?別に無理しなくても」
「大丈夫だよ。私も花火見たいし」
そして花火大会当日。何となく心配だったのでライブが終わるくらいの時間にライブ会場まで迎えに行くことにした。
「お待たせー」
「お疲れ様」
「じゃあ行こ行こ!」
大分楽しみにしていたようだ。借りたんだか持って行ったんだか知らないが浴衣で会場から出てきた。俺は私服。残念ながら甚平とか都合のいいものは持ってなかった。
電車で数駅。俺たちの家の最寄り駅に着いた。
やはり人が沢山いる。
「涼香、手繋いでもいいか?」
「手?」
「人いっぱいではぐれるかも知れないから」
「う、うん。いいよ」
涼香は若干照れくさそうにしながら、手を差し伸べた。なんだかんだで初めて女の子の手を握ったかも知れない。
人が少なそうなポイントを目指しながら道中でかき氷や焼きそばなど、花火大会らしいものをいくつか買った。
ようやく人が少なくなってきた。
「じゃあ、ここら辺で見るか」
「そうだね」
そして間もなく花火が打ち上がり始めた。
自分の家からだと同じような高さからしか見えないから、あまり迫力を感じなかったが、下から見ると迫力を感じた。
少しすると、こっちの方にも人が流れて来た。
俺たちの前に背の高い男が来た。
俺は見えるが涼香は背が低いから見えてないかも知れない。
「涼香、見えるか?」
涼香の方を向きながら問いかけた。しかしその時の涼香は少しぐったりとしていた。
「大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと疲れちゃって」
顔が赤いから恐らく熱中症だろう。
そう思った俺は涼香をお姫様抱っこをした。
おんぶだと涼香が掴まってないと行けない。きっと今の涼香にそれだけの力があるとは思えなかった。
「え、ちょっと、遥輝くん!?」
「いいから」
そのまま家まで連れて帰った。
家に帰ると涼香は謝ってきた。
「ごめんね。私のせいで」
「別に涼香のせいじゃないよ」
「結局、お家から見ることになっちゃったね」
「まあ涼しいし良いんじゃないか?」
涼香が微笑すると
「ねえ遥輝くん」
「ん、何だ?」
涼香の方を向くと、涼香に両頬を手で抑えられそっと口付けを交わした。
その時の俺は熱中症なんじゃないかと思うくらい、意識がぼーっとしていた。ただ、少しすると何があったのかを理解したのか急に熱が込み上げてくる感じがした。
「涼香……?」
「私……、遥輝くんのことが好き」
キスをされたと思ったら間髪入れずに告白された。窓の外で打ち上がっている花火のことなんか忘れたかのように涼香だけを見つめていた。
涼香の告白が火種となったのか、俺の中にあった涼香への好意の感情が一気に湧き上がってきた。
自分でも涼香のことが好きな気がしていた。ただ、アイドルに恋してたらただのガチ恋勢ではないか。と、自分の中でちょっとした隔たりがあったのだと思う。
「涼香、俺も涼香のことが好きだ」
「うん……」
「付き合ってく―」
「ごめんなさい」
「えええ!?」
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