第7話

時刻は夕方を迎えコテージにほのかにカレーのいい香りが漂ってきた。

「皆さんお腹空きましたよね。私でよければ何か作ってきます」

涌井がそう言い出し調理場へ姿を消してからもうすぐ30分ほど経つが、どうやら今日の夕食はカレーのようだ。

調理がさほど難しくはない料理だがここに居るのは客と案内人を合わせて15人もの人間たち。

その全てを一人で作るには、大変だろう。

もちろんそれは誰もが分かってはいるが彼女を手伝おうと動くのには誰もいなかった。

客人である者たちは自分たちが動く必要はないと各々で暇を潰し、責任者であるあるはずの大見も部屋の隅で動画を見ている様で手伝う素振りを見せないがそれを咎めるものもまたいない。

大型のコテージの中でツアー客たちはバスの中のように各自5グループに分かれている。

ロッジは入ってすぐに真四角の大部屋があり更にその奥の小部屋にキッチンがある。

トイレとシャワー室は屋外に簡易的なものが備え付けられいた。

今みんながいるのは入り口直ぐの大部屋だ。


入り口の左側には老夫婦、右側には大見がまるで客たちを監視する様に居座っている。

コテージの両脇には窓があり右側の船着場が見え、ちょうどエアコンの風が一番当たる位置に大学生四人組が、左側の森林が景色を阻害している窓側に父と息子の親子が、キッチンへと繋がるドアのある左側の最奥の壁にオカルト研究部達、そしてその右側の壁際に唯一グループに属さない独り身の男がそれぞれ固まっていた。

それぞれのグループが皆左右に壁際に身を固めているため、コテージの中心はまるで不可侵の領域の様に誰もいない空間となっている。

必要以上馴れ合いをしないまるでそう言う様に各グループは一定の距離を置いていた。


そんな皆んなの様子を食い入る様に見つめる人物がいた。

釘河だ。

「ねぇ加宜くん、やっぱりこのキャンプおかしくない?」

ひそひそ声で横に座る加宜へ話しかける。

「おかしいって何が?」

変なことは多々あるけれど、話に乗るために加宜はあえてそう聞き返す。

「まぁ、まずはこのキャンプ場だよね。あの広告を見てからこんなところに連れてこられたたら、誰だっていい気なんてしない。そんなの案内人達だって分かってるはずなのに、何故こんな事をしたんだろう?」

「そんなの楽して金を得るためでしょ?」

加宜はそう言うが針河は首を振る。

「だとしたらもっと高額なお金を取るだろうし、そもそもこんな曰く付きな場所選ばないと思う。だってさ、お金を取ろうにもこんなところじゃそもそも人が集まらないじゃない」

言われてそれは確かにと加宜も納得をする。

どうせ詐欺を行うのならより多くの金、人を集めたほうがいいに決まっている。

だというのに今回は参加費も中学生がお小遣いで払えるほどの参加費、お金が目的と考えるとどうにもおかしい。

リスクに耐えして見返りがなさすぎる、その事がまず針河には引っかかった。


「それに、あのおじさん。間さんだっけ?あの人が訴えるって言った時に見せたあの余裕のある態度。変じゃない?みんな怒り心頭、非は向こうにある。そんな状況で訴えられでもしたら不利でしかない。なのにあの時の大見さんの余裕のある態度どう考えても不自然」

それは加宜に話しかけているというよりぶつぶつと呟く独り言の様だった。

これは途中で話しかけるべきではないだろう、加宜はそう判断して様子を見守る事にする。

「むしろこうなる事を予期してた?だとしたら納得できるかも。でもなんでこんなそんな事を?そこまでしても人を集める理由があった」

そこまで語ると針河は口を閉じた。

「何かわかったの?」

加宜がそう聞くが針河は首を横に振る。

「全然、だけど少しは頭整理できた」

コクコクと頷く針河は先程より少し晴れやかな顔をしている。

どうやら声をかけなくて正解だったと加宜も安心する。

「つまりね加宜くん、今の状況は私は何から何まで妙だと思うんだ。この変なキャンプ何か裏があるような気がしてならない。というか裏がないとこんな損しか無いキャンプする必要性ないもんね。でも、その裏がわからないところがなんだか怖い」

本当に恐怖を感じているのか?

針河はそういいながら自らを抱きしめるような素振りを見せる。

「気にしすぎじゃない?」

「どうかなぁ。悪い予感って当たるんだよ」

そう告げた針河はどこか確信があるように加宜には見えた。

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