第6話
港を後にした一同が目にしたのはありえない光景だった。
「なんだよコレ」
そうボヤいたのは誰だったのか?
けれどそれはここに集まったキャンプ客皆んなの総意だっただろう。
それはひどい惨状だった。
そこにあったのはあの広告とは似ても似つかないキャンプ場だった。
バーベキュー場もなければあたりも草だらけ、辛うじてコテージの様な建物はあるが明らかに廃墟のいでたちとてもオープンしたばかりの施設とは思えない。
「オイ!コレどーゆうことだよ!」
責任者の大見にまっさきに詰め寄るのは茶髪ロン毛の男、三支。
ただ詰め寄るだからだけではなく大見の襟元を締め上げ問い詰めている。
「なんだよコレ!話と全然違うじゃねーかよ!詐欺じゃねーかこんな!」
怒気を強める三支だが対峙する大見は苦しそうな表情を見せながらも口元の笑みは崩さずにいる。
「落ち着いてくださいお客様、あの広告の写真はあくまで完成後の予想図なのです。今回のツアーはあくまでオープン前の予行練習の様なものどうかご理解を」
どこまでも業務的な対応その事前に用意していた様な言い分がより一層三支の怒りを増幅させる。
「なんだその言い分!ふざけてんのか⁉︎」
右手を振り上げ今にも殴りかかりろうとする三支に流石に大見も恐怖で目を瞑る。
「おい君、やめなさい。暴力を振るえば後々に不利になるのは君だ。相手は元市長、裁判沙汰などにはしたくないだろう」
そう2人の間に割って入ったのは先程オカルト研究部に話しかけて来た五十代程の男性、間寿雄。
ちなみに年齢は57である。
「なんだよ、邪魔すんなよ」
そう反論をする三支だがその言葉に先程までの力強さはない。
それは本能的に察してしまったからだ自らの腕を掴むその手の力強さ、この男に力で勝つことはできないと。
だから精一杯の虚勢を張る。
「龍樹、もうやめなよ。裁判沙汰は流石にやばいって」
裁判沙汰その言葉で三支、同様熱くなっていた頭が冷えたのかひなみもそう彼を止める。
「ひなみん」
三支も彼女のひなみに引き剥がされる様に大見から離される。
「いや助かりましたお客様」
やっと解放された首元を直しながらお礼を述べる大見に間は険しい視線を送る。
「大見さん分かってるのか?コレは明らかに詐欺だ。我々皆んなが貴方を訴える事も出来るんだぞ」
「ええ、もしこのツアーに不満があるのならば帰宅後苦情はいくらでも受けたわります」
大見は気持ち悪いほどの営業スマイルでそう告げた。
鴨ノ島キャンプ場、まだキャンプ場として全く成立していないこの場所を前にしてアシスタントの涌井豊花が改めて皆の前で頭を下げて謝罪を行なった。
「皆さま今回は私どもの手違いで本当に申し訳ありません」
「貴女は今回の事どこまで知っていたんですか?私達を騙すつもりでこんな所へ連れて来たんですか?」
深々と頭を下げる涌井に親子で参加している米良洋次が泣きつかれ背中で眠る息子の篤美を抱えて訪ねた。
「その私は今回大見さんに初めて雇われましてこの島に来たのも今日が初めてだったんです」
「本当に?それを証明することはできますか?」
「証明と言われましても」
客が周囲を取り囲んだ状態でのまるで取り調べの様な詰問に涌井の顔も青ざめる。
唯一の仲間である筈の大見はすでに輪から外れ
まるで関係ない様にタバコを吹かしている。
もはや助ける人などいないと思われる中今にも泣き出しそうな涌井の横に間が立った。
「もういいだろう。ここで彼女を責めてもしょうがない。それより涌井さんコテージや設備の確認をしたいんだが良いだろうか?どの様な様子なのか確認しておきたい」
「は、はい。ただいま」
まさに救いの神だという様に涌井はすぐさま鍵を取り出しコテージへと向かう。
他の客はまだ文句を言い足りない様子だったがとりあえずは間と共にコテージの確認へと向かうのだった。
生活の拠点となるだろうコテージ、その内装は外観の廃墟の様な状態とは打って変わり汚いながらも過ごせないというほど荒れ果ててはおらず、照明に水道、エアコン、トイレにシャワー
その全てが機能をしていた。
またコテージに設置された大型冷蔵庫、そこにも野菜や肉と多くの食材が詰め込まれており、コテージ自体も大型で客13人に案内人2人の計15人が窮屈ではあるが雑魚寝ならばなんとか寝るスペースを確保できるくらいの広さはあった。
「まぁ、窮屈だけれど過ごせないことはないか」
ある程度の設備がある、それを知ることができて皆の怒りがある程度下がる。
そもそもここの客の多くはキャンプ目的では訪れていないので食事と寝れる場所さえあればそこまで文句は無いのである。
「もしかしたらあたりを探せばまだキャンプで使えるや皆様を楽しませれるものがあるかも知れませ、私探してきます!」
失態を取り返そうとしているのかそう張り切る涌井だが一番の責任者である大見はやる気がない様にロッジの椅子に腰掛けてタバコをまた吹かしている。
そんな様子にまたみんなの怒りのボルテージが上がり出す中大学生4人組が荷物を持ちロッジから出て行こうとする。
「オイ!悪いが俺らは帰るぜ。コレじゃあキャンプは楽しめそうにないからな、船出せよ」
それは当然の選択だった。
彼らの目的は慰霊ではなく遊び、それが期待できないとなれば選択肢は一つである。
それに泊まれる場所は一棟しかないコテージのみ。
若い女性もいるこのグループが知らない男達と雑魚寝など選ぶわけがなかった。
「オイ!俺らは帰るからよ船出せよ!」
三支が船を運転してきた大見にそう告げるが彼は首を横に振る。
「今は船は出せませんよ。この島は潮の流れの関係上この季節島を出るには午前中しか出せないのです。それ以外だと馬力のないあの船では島へと押し流されてしまいます。ご帰宅されるならどうか明日の朝までお待ちください」
「はぁマジかよ?」
「ここに泊まるしかないの?」
「ありえないんだけど」
そう口々に不満を漏らす大学生達だが、そんな不満とは比べ物にならないほど不穏な空気が今この場に一気に溢れて出したそれを針河だけが今までの経験から感じることができた。
まるでマンホールから汚水が溢れ出してきたかの様な醜悪な空気。
勘でしかないけれど何か良くないことが起きる
胸の動悸が警報のようにそう告げていた。
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