第4話
亞義野海水浴場に着いたのは11時前ごろだった。
バスに揺られること約一時間半、その間に加宜が車内を見て気づいたことは今回のキャンプで集まった人たちの目的は主に二つに分かれるという事だった。
一つは名目通りにキャンプを楽しみにきた人々。
このバスを見る限りそのメンツはこのオカルト研究部と二十代の男女のグループだけに見えた。
その他の人々はどうも様子が違う。
なんだか暗い空気を纏っていて、とてもこれからキャンプを楽しもうとしている風には見えない。
恐らく彼らはキャンプが目的ではなく追悼の為にキャンプ場へと向かっているのだろうと加宜は予想をした。
そんな追悼と娯楽と相反するに種類の目的を持って亞義野海水浴場へとやってきた人々を迎えたのはスーツに身を包んだ笑顔の2人の男女だった。
「皆さまこんにちわ。私今回のキャンプの案内役を務めさせていただきます。大見会蔵と申します!」
そうまるで小学生の様に元気な挨拶をするのは
中肉中背の恐らく60代中頃だと思われる男性。
違和感のない自然な笑みから察するにこうした接客には慣れている様子だった。
そして男性の横に並ぶのは髪を肩の高さで切りそろえた、子犬の様な愛嬌のある顔の二、三十代の女性だった。
「同じくアシスタントを務めさせていただきます。涌井豊花と申します」
2人はキャンプ客に向かい深々とお辞儀をすると順番に受付を取り出した。
そんな様子を一番後方で見ていた針河が目の前にいた加宜にそっと耳打ちをしてくる。
「ねぇ、あの案内人の大見会蔵って3年前まで市長していた人だよね?」
そう言われて加宜も気がつく。
三年前、ニュースで見ていた頃と比べるとずいぶんやつれてしまったけれど、何度も見た顔だ間違いではない。
他の参加メンバーもその事に気づいたのかザワザワと声を上げ始めた。
このままでは進行が遅れそうになる、そうなる寸前で大見の横に控えていた涌井という女性が声を上げた。
「皆さま、本日のキャンプはこの亞義野海水浴より船で5分先にある無人島に行います。すでに食材や宿泊場の確保はできているので、手続きが完了したお客様から桟橋に止めてある船へ乗船をお願いします」
まるで、余計なことを言われる前に話題を移した様に見えたがここで口論をする理由など誰も無いためそれ以上この場では大見会蔵について口を出すものは誰もいなかった。
参加の手続きは簡易的なものであり、身分証の提示と参加料を支払うだけで、オカルト研究部のみんなは学生証を身分証代わりとして提示した。
「はい、結構でございます」
ニコリと笑みを浮かべ学生証を確認する涌井という女性はオカルト研究部を見て小声でも声が聞こえるくらいまでに距離を縮めてくる。
「君たちは、夏休み旅行かな?」
相手が子供だからだろうか?
先程までの接客口調ではなくフランクに尋ねてくる涌井にあからさまに不機嫌な態度を取るのは名護沢だ。
同じ客なのに子供というだけで態度を変えられる、まるで自分たちが見下された様でそれが彼からしたら気に食わないのだ。
あからさまに涌井の言葉を無視して、そのまま船へと勝手に乗り込んでしまう。
そんな様子を横で眺めていた大見はククと噛み殺した笑みを見せる。
「嫌われた様だな」
明らかにバカにした様なその言い方に涌井も大見へ怒りの視線を向ける。
なんとも言えない居心地の悪い空気、たまらないのはそんな様子をマジマジと見せつけられている名護沢以外のオカルト研究部の面々である。
険悪な様子の大人達を前にしてしまい小渕川は既に青い顔をして加宜もどうしたものだろうかと視線を泳がせている。
針河は暫くそんな二人の後ろで様子を伺っていたが、やがて待つのも飽きたのか二人を押しのけ前に出ると、
「ねぇ、もう船乗っても良いの?」
もう待ってられないとそう告げた。
「あ、ええ。大丈夫です。どうぞご気をつけて」
決して相手を威嚇する様な素振りは見せてはいないが、それでも真っ直ぐな視線を向けてくる針河に二人の大人は一瞬で冷静さを取り戻し、自分たちの失態を恥じる様に目を伏せた。
「そっか。なんかオッケーぽいみたいだし私らも船にいこっか」
そう船着場まで急ぐ針河に加宜と小渕川の二人は慌ててついていく。
ゴロゴロとキャリーバッグを運びながら加宜は針河へそっと話しかけた。
「ビビったよあんな空気の中よく話しかけられたね」
その針河の怖いもの知らずの性格に驚きを隠せない、それは小渕川も同じ気持ちだった。
そんな二人に針河は呆れた顔をする。
「最初は二人に任せようと思ったよ。でも揃って突っ立てるだけなんだもん。あのまま待ってるのもめんどくさいじゃない」
「それは、申し訳ない」
そう言われてバツ悪そうにする二人と共に船着場についた針河は目を丸くする。
「え?まさか船ってコレ?」
海水浴場の端にとってつけた様なコンクリートで作られた船着場、そこには白い塗料が剥げ外装が至る所錆びついたおんぼろ船がエンジンが無事か心配になるほど黒煙を吐きながら停船していた。
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