第2話

人は死んだらどうなるのか?

それは人類が長年抱き続けた疑問の一つだと思う。

魂というものは本当にあるのか?

死後の世界や幽霊は本当に存在するのか?

それともそんなものは無くて死んだものは無へと帰るだけなのか?

この疑問を解消する為に僕らは今日ここへ集まったのだ!

そう、この八畳ほどの狭っくるしい部室で僕らは人類の永遠の課題へと挑むのだ!


ホワイトボードに夏休みの計画を書き出しながらそう意気込む部長の加宜景次郎を他の3人の部員は冷めた目で見ていた。

「なんかカッコよく宣言しちゃってるけど、具体的には何するのさ」

パイプ椅子をシーソーの様に揺らしながら名護沢英多が尋ねると加宜が4枚の写真をホワイトボードに貼り出す。

張り出されたのは全て風景写真。

1枚目はどこかの学校、今はなかなかお目にかかることのない木造校舎だ。

所々割れた窓ガラスの様子から既に廃校となっているようだ。

2枚目の写真はこれまたどこかの公園。

やはり今は見なくなったジャングルジムやブランコ、シーソーなどの遊具が見て取れる。

遊具は随分と錆びていて塗装もかなり剥がれていて随分長いこと手入れがされている様子はない。

3枚目の写真は、この場にいる全員が覚えがある場所だった。

「その海の写真。亞義野海水浴じゃない?」

金髪の色黒の少年、小渕川忠豊が怪訝そうな目つきをしてくる。

亞義野海水浴、かつては海水浴場として多い賑わった場所ではあるが今から2年前に大波がこの海水浴場を襲い多くの海水浴場客が溺れ死んだことはまだ記憶に新しい。

そんな場所がピックアップされているのだ、なんと無くこの先に展開が読めてきたと小渕川は予測を立てる。

そして思った通り4枚目の写真に映る景色それは霊園だった。

「なんだよ結局毎年恒例の心スポ巡りかよ」

ダルとぼやく名護沢に小渕川も同意をする。

「たまには違うこともしましょーよ」

ぶうぶうと文句を言い出す二人を困った様にな笑みで見る加宜に助け舟を出すつもりで今まで黙っていた唯一の女子部員、針河香夜が口を開いた。


「違う、心霊スポットじゃない。ここ全部実際に人が死んだ事件現場でしょ?」

針河の言葉に小渕川と名護沢はギョッとした様子で加宜を見る。

加宜は頷きそれを事実だと認めた。

「1枚目の校舎は去年殺人事件が起きたこの町の大同条南小学校旧校舎でしょ?被害者が祈りを捧げる格好で死んでいたことから、例の祈り殺人事件。世界ではリーサル事件って言われてるあの事件の現場」

リーサル事件、日本では祈り殺人事件と呼ばれていたその事件は九州の一つの町から始まった。

被害者の共通点不明犯人似の人物像不明何もかもがわからないその事件は日本から世界へと被害者を増やし続け犠牲者の数は今や三桁を超えていると噂されている。

この前代未聞の事件を海外では死に至らしめるを意味するリーサルと呼ばれそれがいつの間にか犯人の通称にもなった。

2年前その犯人がこの町に現れ事件を起こした。

リーサルの被害者は共通して首の骨を折られた後、祈りを捧げる様に手を組まされる。

大同条南小学校旧校舎で発見された遺体もまさにその条件を満たしていた。

その事実は町の人々を恐怖のどん底に落としたが、幸いのことのについ一月後また海外で犠牲者が出たことでリーサルは去ったと今は判断されている。

「次に2枚目の公園の写真は2011年に起きた猟奇殺人事件の現場だね。ジャングルジムに15等分された子供のバラバラ死体が括り付けれれていたっていう。犯人とされた男性は捕まる前に首を括ったて話だね」

その事件は一人の少年が姿を消した事から始まった。

その少年Aは当時まだ3歳で母親が道を聞かれ目を話した隙に姿を消したという。

最初は迷子になっただけだと母親はのちに語る。

しかし探せども探せども子供の姿はなく、警察に連絡をしたのが一時間後のことだった。

直ぐに周囲の捜索が行われたが子供の行方は分からず誘拐の可能性も踏まえ捜索が続いた。

そして失踪から2日後母親宛に小包が届いた。

指輪入れほどの小さな小包。

その中には人間の眼球が一つ入っていた。

子供のものではない大きさ的に間違いなく大人のものそしてその人物は翌日見つかった子供とともに。

男はブランコで首を括り死んでいた。

右目はくり抜かれていたが死因は頸部圧迫による窒息死だったという。

子供の方は体をバラバラにされた状態で遺体片をジャングルジムに括られていた。

司法解剖の結果生きたまま解体されたことがのちに判明された。

のちの捜査で男の部屋から子供を解体する動画や凶器が多数見つかった事から男が子供を殺害したのち自殺したと結論づけられたが、未だ謎の多い事件である。


「3枚目は小渕川が言った通り亞義野海水浴場だね。ご丁寧に慰霊碑まで写ってるじゃん。これ、加宜くんが撮ったの?」

その質問に加宜は首を振った。

「違う違う。親戚にこういった怪事件が好きな人がいてね。その人が貸してくれたんだ」

けれどこの3枚目の写真はみんなに見せるまでもなかったかなと加宜は改めて思う。

だってここにいる四人でこの事件を知らないものはいないだろうから。

事件が起きたのは2年前、中学生になったみんなが最初に過ごした夏に起きた。

当時の亞義野海水浴場はここいらでは唯一の海水浴場で、家族やカップル友人が多く集まって夏を楽しんでいた。

そんな多くに人が集まる場所に大波が襲った。

離岸流に飲まれた人たちは岸に戻ることができず結果12人の人が命を落とした。

そこに当時のクラスメイトが一人含まれていた。

替迫燐。

中学一年の頃学級委員を務めまさに才色兼備だった彼女はこのオカルト研究部の四人とも同じクラスで誰も彼女とはそれほど親交はなかったけれどそれでも同じクラスメイトの死は衝撃的だった。

「あれからもう2年か」

そうしみじみとする3人をよそに針河だけは鋭い視線で4枚目の写真を見ていた。

「ねぇ、加宜くん。この4枚目の写真この霊園なんの場所かわかってるの?」

「いいや。僕は知り合いに心霊合宿にオススメの場所聞いて写真渡されただけだから」

そんな中途半端な情報量でよくあんなに堂々と口弁をたれたものだと針河は呆れてしまう。

と同時に加宜に情報を与えた人物に少し興味を惹かれた。

「なんなの?その4枚目の写真?」

小渕川がそのヤンキーの様な派手な容姿から出たとは思えない弱々しい声で尋ねてきた。

「事件現場よここも。しかもつい最近起きた殺人事件の現場」

「よく知ってるねニュースでやってた?」

加賀の質問に針河は首を振る。

「この事件、近年稀に見る残虐な事件で報道規制がされたはずだからニュースじゃやっていないよ。だから私も驚いた加宜くんがこの場所の写真を持ってきたことに」

残虐という意味では、先程の児童公園殺人事件も酷い事件だったけれど、この霊園殺人事件は更に酷く異常な現場だったという。

被害者は近くの住む女子中学生。

なんでもアイドルの最終審査まで行った美少女だったという。

彼女が姿を消したのは部活帰りだったという。

バスケ部に所属していた彼女が友達と共に校門を出たのが午後6時過ぎ。

その後二人でコンビニでアイスを買って二人は別れたそうだ。

その姿はコンビニの防犯カメラでも確認ができた。

時刻は午後6時20分だったという。

そしてそこを最後に彼女の足取りはわからなくなる。

姿を消した彼女が見つかったのは2日後。

自宅から700メートル離れた霊園、彼女の先祖たちが眠る墓石の前で彼女は息絶えていた。

遺体は一糸纏わぬ姿で墓石の前に座り込んでいた。

その遺体は異様だった。

両耳は削ぎ落とされ、口はまるで口裂け女の様に頬まで切り裂かれていた。

瞼は切り取られ濁った目玉はギョロリと警察たちを見つめていたらしい。

両乳房も切り取られ、その肉片は切断された耳と共に綺麗に足元に並べられていたという。

そして最後に腹を十文字に裂かれそこから引き摺り出された腸が彼女の首にまるでマフラーの様に巻かれていた。

死の惨すぎる遺体に駆けつけた警察たちは一様に青ざめ酷いものは気を失ったという。

この事件が起きたのがつい2月前の事だった。


針河から話を聞いた部活仲間は3人とも余りに酷すぎる事件内容に明らかに顔色が悪くなっていた。

小渕川に至ってはボードに貼られた写真すら見たくないという様にずっと反対側にある部室入り口へ視線を向けている。

「犯人は?」

名護沢が聞くと針河は静かに首を振った。

「まだだって聞いてる」

「針河はなんでそんな情報知ってるの?」

針河が持っている情報は一般人が持っているものではないましてやただの中学生が、疑問に加宜が声を出すのも当然の反応だった。

「加宜くんと同じだよ。知り合いに事件とかに詳しい人がいてね、その人から色々聞いてるの」

その人物が一体どういった人物なのか正直気にはなるがお互い様という事で加宜も深くは追求をせずにおく。


「それより、この4枚の場所に行くつもりなの?」

怪訝そうな顔つきで尋ねる針河に加宜は勿論だと大きく頷いて見せた。

「その通り!事件の内容まではそらなかったけれど、どれも奇妙奇天烈な事件が起きた場所、心霊合宿にはもってこいの場所だろ」

そう楽しみだと謳う加宜に対して針河と名護沢は否定的な反応を見せる。

「流石に本当の事件現場に行くのはどうなの?」

と小渕川。

「時間の問題じゃないけれど霊園の事件なんてまだ二か月しかたってないんだよ?流石に無茶じゃない?」

と針河がそれぞれ批判の声を上げた。

「だから、どれがいいかみんなに相談しようと思ったんだ。全部回るのは金銭的にも無理だしね」

けれど加宜はそんな二人の意見など意にもかえさないように話を進めて行く。

彼の悪い癖だ。

一度決めて事は頑として譲ろうとはしない。

それがどんなに非常識な行いであっても。

そんな彼の性格が一番わかっている小学校からの同級生である名護沢は早々に彼の説得を諦め話に乗ってくる。

「それで、現実的なのはどこなんだよ」

「そうだなぁ、確かに針河さんが言うように霊園事件の現場に向かうには難しいかもしれないな。まぁ一番安くつくのは県内の亞義野海水浴場かな」

その加宜の発言に小渕川が明らかに批判的な目をする。

「わざわざクラスメイトが死んだ場所を選場なくてもいいのにさ」

そうそよ風程度の小声で加宜へ不満を述べるけれど、加宜は聞こえているかが不明だが彼の声を無視して話を続ける。

「亞義野海水浴場に行くとしても、それでどうするの?みんなで海水浴を楽しむわけでも無いでしょ?」

針河のその言葉を待っていたとでも言うように加宜はニヤリと笑い一枚のチラシを机の上に置いて見せてきた。

「なんだコレ?亞義野海水浴場キャンプツアー?あそこ、あの事故で閉鎖中のはずだろ、キャンプなんて出来んのかよ?」

名護沢の疑問はもっともだった。

亞義野海水浴場は事故が起きた2年前のあの日から今日に至るまで海水浴は禁止されており、今は慰霊の為の場となっていた。

「それが今年からその閉鎖が解かれるらしくてさ。その記念イベントとしてキャンプツアーが行われるわけ。俺たちも是非このツアーに参加しようよ。日取りは今月28日からの3日間、みんなで楽しい思い出作ろう!」

ほぼ加宜の独断で決まった夏休みのスケジュール。

それがまさか、あんな事件に繋がるなどこの時は誰も考えもしなかった。

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