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◇
「んん、はあ」
ぐっと背伸びをして自室へと戻る。身体を動かした後、頭を使った後というのはやっぱり疲れる。ここに来て一年。自分の能力を使うことにも、魔喰いの勉強や普通の高校でするような勉強にも少しは慣れてきたような気がする。
狭い個室に置かれたベッドに腰掛ける。能力が安定して使えるようになるまで、職員になるための試験を合格するまではこの狭い空間が私の部屋。狭いこと以外に文句はない。暴走した時の対策もバッチリ、という話だし。それでもまあ、早く普通の部屋に移りたいというのが本心ではあるけど。
コンコン、と扉が叩かれる。はい、と返事をすると、扉を開けて見知った姿が入ってきた。
長い金髪を緩く巻いて、ツインテールに結んだ小柄な少女。アメジストの瞳は今日も綺麗に長いまつ毛の奥に佇んでいる。
「よう、かなめ。元気か?」
「うん。万妃、もう学校終わったの?」
まあな、と言いながら万妃は私の横に腰掛ける。
「今日は例の部活が休みでな。ったく、なんで高校にまで通わなきゃいけないんだか」
万妃は不満そうに口を尖らせる。
「義務教育じゃないけど、行っておいた方がいいんじゃないの? そりゃ万妃は、ずっとここで働くんだろうから学歴とかあんまり関係ないのかもしれないけど」
「それ以前にそんな歳でもないし。っていうか一回ちゃんと出てるし、高校」
その言葉に、え、と思わず口から声が溢れた。
「ば、万妃って、いくつなの?」
「今年で二十六だな」
「に、二十六⁈」
その見た目で、と言いかけたところで、万妃は私を睨みつけた。どうやら見た目と年齢のことはそれなりに気にしているらしい。
「仕方ないだろ。疑似的な不老不死。歳をとるのがちょっと遅いんだよ」
「そ、そっか」
そういうことだ、と万妃は頷いた。
「ま、歳を取らないのも今は悪くないかもな。かなめの横にいても、まだしばらくは違和感はないだろうし」
「別に、そんなの誰も気にしないのに」
「まあな。師弟関係だの相棒だの、別に年齢に差があってもおかしくない……あと三年、か」
それは万妃が今の任務を終えるまで。そして私が、正式に職員としてこの機関に所属するまで。つまりあと三年経てば。
「あと三年経てば、やっとかなめと一緒に仕事ができる。正真正銘、公私共にパートナーになれる、ってわけだ」
ニヤ、と笑いながら、万妃が私を見つめる。公私共にという部分がなんとなく恥ずかしくて、そうだねと答えながら万妃の顔から目を逸らした。
す、と。白い手が伸びたのが視界に入る。見れば、万妃は小指を立てた手を私に差し出していた。
「改めて、約束しようぜ。アタシとかなめはパートナーになる、ってな」
「——うん、約束」
差し出された小指に自分の小指を絡み付ける。しっかりとお互いの小指を絡めて、私と万妃は笑顔を浮かべて頷いた。
Eater 月代杏 @tsukishiro228
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