16
「っ、ひっ⁈」
ばさりと何かが落ちた音。目の前には何も書かれていないノートと開かれたままの教科書。心臓は煩いくらいに鳴っていて、目は忙しなく、現状を確認しようとキョロキョロと動き回っている。胸が痛くて、服の襟元を握りしめた。
「っと、かなめちゃん、大丈夫?」
かけられた言葉にハッとして振り返ると、伴場先生が落ちた教科書を拾い上げながら心配そうに私の顔を覗き込んでいた。翠の瞳に見つめられても、いつものまとわりつくような感覚はしない。ただ純粋に心配されているということがはっきりとわかる視線だった。
伴場先生から視線を少し逸らして周囲を確認する。場所は理科室。ああ、そうだ。今は四時間目の理科の授業中。どうやら私は居眠りをしてしまっていたらしい。
「だ、大丈夫です。すみませんでした」
恐怖と動揺を悟られないよう、平静を装って返事をする。伴場先生は私の言葉を聞いて安心したのか、その目から心配の色が薄くなった。そう、と翠の瞳が細められる。いつもの、ねっとりと絡みつくような視線。何かを観察しているような、探っているような視線。
伴場先生は、くすり、と笑みをこぼす。妖しい笑みに、内臓がぞわりとするような感覚がした。何もされていないのに、身体の中身に触れられたような、そんな感覚。
「ま、ほどほどにねェ?」
小さな声でそう言って、伴場先生は教卓へと戻っていく。その後ろ姿を目で追おうとして、後ろの方の席に座っていた万妃と目が合った。ああ、やっぱり見られていた。
視線を伴場先生の方へと戻すと、今度は前の方の席に座った秋菜と目が合う。秋菜は私と目が合うと、大丈夫? と口を小さく動かして首を傾げた。頷くと、秋菜は安心した様子で正面を向いた。
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