3/可憐

15

 ふわふわとした頭で見慣れた廊下を進む。いくつもの扉の前を通り過ぎて、目的地なんてないまま歩き続ける。灰色の床は冷たくて、足を進めるたびにぺたりぺたりと音が鳴った。

 ころん、と。目の前に飴玉が落ちた。ああ、善い美味しそうなお菓子。そっとしゃがみ込んで、飴玉を拾い上げる。天井の明かりに照らされて、ピンク色をした飴玉はキラキラと光っている。あ、と口を開けて放り込む。舌の上で転がせば、べっとりとした甘い味が口の中に張り付いた。

 もっとたくさん喰べたいな。だってこんなに美味しいんだもの。お腹は少しだけ空いている。空腹を埋めたくて、ううん、ただ善い美味しいものが喰べたいから、私はそれを探してまた歩き始めた。

 しばらく歩いていると、今度はどこからどう見ても悪い不味そうなお菓子が落ちていた。スポンジが緑色に変色したケーキ。まるでコケみたい。上に乗った苺は腐って溶けかけている。こんなもの、とてもじゃないけど喰べられない。

 でも、せっかくのお菓子なのにこのまま見捨てるのも可哀想。何かしてあげなきゃ。何をしたらいいだろうか。

 うんうんと唸って、思いついた。そうだ。少し良いものをプレゼントしてあげよう。

 気がつけば、私の手には花冠。白いお花の、いい香りの花冠。可哀想なケーキの上に、綺麗なお花の冠を載せてあげた。これは慈悲。これは祝福。可哀想なあなたへのささやかなプレゼント。ケーキも嬉しいのか、少しだけ輝いて見える。

 うん。これならいいだろう。

 満足して、私はまた歩き始める。

 目の前には飴玉。ケーキ。クッキー。たくさんのお菓子が落ちている。それらを拾い上げて、もぐもぐと喰べていく。綺麗に喰べることができなくて、手はクリームでベタベタ。ほら、白いクリームが手に。


「?」


 紅いクリームが、手に。


「あ、れ」


 手についたクリームを舐めとる。甘くてとろけるような味。うん、間違いなくこれはケーキのクリーム。だから一瞬見えたあの色は何かの間違いで。

 ああ、けど、なにかおかしいような、やけに感覚がはっきりしすぎているような——ねえ、これは本当に、夢?

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