「えーっと、みんなももう知ってるとは思うけど、一週間ほど前から夜部市内では行方不明事件が多発しています。って言っても、行方不明事件自体は昔からちょこちょこ起きてたんだけど……ただ、ここまでの規模の事件は五年前以来だって話だからな。連続ってのも初めてのことだし」


 担任教師ははあ、と重たいため息を吐く。

 朝のホームルーム。登校して早々に暗い話を聞かなければならない生徒も、わざわざ話をしなければならない先生も、どちらも気分は沈んでいることだろう。

 警察もテレビも街の人たちも、みんな今回の事件と五年前の行方不明事件を結びつけている。それだけ五年前の事件が印象に残っていて、今回の事件も五年前同様大きなものであるということなのだろう。


「というわけで、今日から放課後の部活動は禁止。居残りも委員会もな。みんな、速やかに下校するように。あ、なるべく一人で帰らないようにな。何があるか、わからないんだから」


 その言葉に、昨日の帰り道を思い出す。

 不気味な通学路。白い化け物。そして、私を助けてくれたクラスメイト。夢のような出来事だったけど、あれは確かに現実で。あんな化け物が、街を彷徨いている。あの化け物が、きっと今回の事件に関係している。

 ふと、秋菜の席に目を向けた。

 こちらに背を向けているため、その表情はわからない。けれども秋菜の身体は、かすかに震えているように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る