7
「——ひっ」
ぐっと唇を噛み締める。喉からせり上がってきていた悲鳴は、口から飛び出る直前で止められた。抑え込んだ悲鳴が口から溢れないように、両手で口元を押さえつける。
目の前に広がるのは見慣れた天井。もうどこにも料理やお菓子はない。大きなテーブルも綺麗なテーブルクロスもたくさんのお皿も、もうない。
ゆっくりと口元から手を動かして、頬に爪を立てる。じわりと痛みを感じて、今この光景は間違いなく現実であると私の頭が認識し始める。
さっきまでの光景は夢で、もう目は覚めている。大丈夫。ゆっくりと身体を起こして、ここが自分の部屋であることを確かめる。大丈夫。部屋におかしなところは何もなくて、寝間着も布団も綺麗なまま。大丈夫、大丈夫と何度も口の中で繰り返す。
心臓はばくばくと強く、痛いくらい強く脈打っている。手は小刻みに震えていて、落ち着かなくて寝巻きの首元をいじり出す。
それでも夢から覚めたのだと、何もおかしなところはないのだと、そう認識できたから気持ちは少しだけ落ち着いてきた。
「は、あ」
ぎゅっと首元を握りしめて、ため息を吐く。
また、食べ物の夢。今日も昨日もその前も、あの日からずっと、いつもいつも同じような夢。警告のつもりなのか。罪悪感のせいなのか。それともまさか、予知夢なのか。何にせよ、嫌な夢であることに変わりはない。
「いっそ、忘れられたら」
いいのに、と続けそうになって、その言葉を飲み込んだ。
それはいけない。それだけはいけない。忘れるなんてこと、絶対にしちゃいけない。それは逃げだ。これ以上逃げることは、許されない。わかってる。
でも、でも。
「もう、やだなぁ」
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