第2話(1)

王国承認暗殺ギルド“ニードル”の人形娘エルと新米イヴのコンビは、王宮護衛団西区の駐在所に来ていた。

 騎士団を自衛隊と例えるなら、護衛団は警察みたいな存在である。

 護衛団の駐在所は、城下町だけでも沢山点在していた。

 中でも西区は冒険者ギルドやスラム街がある為、絶えず暴力沙汰な事件が多い。

 そんなところの情報を、間接的に受け取らず直接聞きに行く変わり者は、ニードルの面々くらいなのだろう。

 駐在所で留守番していた女が、やれやれといった仕草を見せた。

「わざわざ直接聞きに来るなんて、御苦労様ね。

 何が知りたいの?」

「スラム街に関する情報。」

 エルの質問は常に直球であった。

 オブラートの欠片も無い。

「特に目ぼしい話は・・・あ、ついさっき奴隷商“アラクネ”から逃げてきたって女の子がいたわ。」

 これまた直球な答えが返ってくると、エルは女の首根っこを掴む。

「どこ!?

 どこに行ったの、その娘!!?」

「い、痛いわ、離して!」

 エルがパッと離すと、女は荒い息を吐いた。

 小さな手と細い腕で、なんて力・・・!

 と思っていたのに、

「加減した力で掴んだだけでしょーが。

 ギャーギャー騒いでないで、さっさと答えなさいよ。」

 圧力全開の台詞で畳み掛けられた。

 文句の一つも言いたかったが、エルの殺気が凄まじく、か細い声を出すのが精一杯になってしまう。

 危険人物だわ、この娘。

 王国では5人の名前が出るけど、6人目は?と聞かれたら真っ先にこの娘の名前が挙がるでしょうね。

「私の同僚が抱きかかえて病院に連れて行ったわ。

 今の季節を考えれば第4棟だと思う。」

「ありがと。

 イヴ、病院に行くわよ。」

「あ、うん。」

 イヴはそう言いながら駐在所の女に目線を送り、ゴメンネと言いたげな仕草で

「ありがとうございました。」

 と言い、エルと共に去っていった。

「・・・あの女性、苦労人ね。

 同情するわー。」

 イヴはこれから先、様々な人々に苦労人と言われる事になるだろう。

 たぶん、ほぼ確実に。


 病院に着くと、イヴが受付に

「ドクター・スノーと面会したいのですが。」

 と即座に丁寧に対応していた。

 黙っていると、またエルが暴走するのは目に見えている。

 ニードルの人間が面会に来ても、病院の受付は少しも臆していなかった。

 それもそのはず。

 ドクター・スノーは“雪原の魔女”の二つ名を持つ強者なのだから。

 少しして声が掛かる。

「第一診察室へどうぞ。」

 入ると、そこにはドクター・スノー本人がいるのみであった。

「どうぞ、その椅子に座って。」

 エルとイヴが静かに座る。

 そしてエルが即座に切り出す。

「西区から運ばれてきた少女は?」

「あの娘は入院したわ。

 第4棟の患者になったの。

 衰弱していたから、スタミナ剤を投与。

 今は眠っている。

 断っておくけど、面会謝絶よ。」

「奴隷商“アラクネ”の場所が知りたいだけなんだけど。」

「それは私も知りたいわ。」

「え?」

「私の患者に仇名す者は全て病原菌。

 病原菌を駆除するのは医者の務めよ。」

 その声の直後、室内なのにドクター・スノーの周囲から風が吹き始めた。

 そしてその風には雪が舞っている。

 その雪風に乗って何かが舞い、それはイヴの掌に収まった。

 ずいぶんと萎れた花だ。

 種類までは分からない。

「この花は?」

「少女の衣服にくっついてたの。

 調べれば、何かが分かるかもしれないでしょ。」

 エルがジロリと睨む。

「いいの?

 私たちが病原菌を駆除してしまうかも、よ。」

「病原菌がいなくなるなら、私はそれでいいの。

 その花から得た情報は、あなたたちの好きになさい。」

 それを聞くとエルが立ち上がる。

「とりあえず御礼は言っておくわ。」

 そして立ち去るエルとイヴに、ドクター・スノーはいつもの調子で

「お大事に。」

 と一声かけていた。

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