第1話(2)
イヴが本部に戻ると、ロビーにあるソファーに座って、コーヒーをブラックで飲んでいる美少女が目に入った。
身長は150くらいだろうか。
黒に近い深緑色の長い髪、整った目鼻立ち・・・え?
「なに、ジロジロ見てんのよ。」
そこにいた美少女は、ウェストブルッグ家の人形娘ドールと瓜二つであった。
違いは髪と目の色のみ。
容姿そのままの可愛らしさが見てとれる。
なのに、
「そんなとこにツッ立ってないで、こっちに座りなさい。」
この言葉遣いは何なのか。
ドールが良家のお嬢様なら、こちらは不良娘の代表格だ。
黙ってると怒られそうね。
「はい、今行きます。」
とりあえず向かいのソファーに座った。
それを見ると不良娘は、受付嬢に吠える。
「コーヒーおかわり!
あとイヴの分も持ってきて!」
受付嬢は慣れているのか、何も言わずに厨房へと向かった。
たぶんコッソリ中指立ててるかもしれないが。
ソファーに座ってイヴは、ケイトに驚くわよと言われた事を思い出す。
まさか、この娘が!?
「あなたがエル!?」
名を呼ばれた不良娘は、イヴの声色など気にもせずカップを置く。
「あ、誰かからあたしの事聞いてたの?
まあいいわ。
貴女の事も聞いてるし。
エル・リーベンデールよ。
初めまして。」
「あ、い、イヴです・・・。
初めまして。」
それだけの言葉を交わすと、エルはバサッと和紙数枚をテーブルに広げた。
何やら綿密に書かれている。
「これは?」
「奴隷商“アラクネ”の極秘情報よ。
幻惑の陣で調査してた報告書。」
!
幻惑の陣。
あらゆる幻を扱う部署などと語るその実態は、情報工作員と聞いた事がある。
ここまで調べ上げているなんて。
驚くイヴをよそに、エルは淡々と話を進める。
「今回のターゲットはこの女よ。
マーキュリー伯爵夫人。
奴隷商“アラクネ”の総支配人を務めているらしいわ。」
「え?
エル、リディアという女もいたんじゃ?」
「頭を叩けば、下っ端は嫌でも芋づる式に出てくる。
ついでにリディアたちもまとめて全部ハンティングすればいいだけ。
まずは幻惑の陣で調べた情報の裏を取るわよ。」
「分かった。
あとエルに伝えておきたい事があるんだけど?」
「何よ?」
話していると、受付嬢がコーヒーを2カップ持ってきた。
自分で淹れろっての!と言わんばかりに、ドン!とテーブルに置く。
「あ、どうも。」
イヴは礼を言うが、エルは掌をブンブンして、
『置いたらさっさとカウンターに戻れ』
と受け取れるゼスチャーをした。
受付嬢は、軽く舌をベーっと出して戻っていく。
いつもこんな感じなのかしら?
仲が良いんだか悪いんだか。
エルはグイっと飲むと、イヴをジロリと見る。
「・・・さっさと言いなさいよ。」
「あ、ご、ごめん。
ケイトがね、宜しくと言ってたの。
リディアを探す仕事受けているから、何か分かったら教えるって。」
「ケイトが?
誰に頼まれた仕事なの?」
「リディアの兄って話だったわ。」
「ふーん。
でも、それらの書面にリディアの事は少しも書いてないわよ。
その代わり、2人の男の情報なら少し載ってるでしょ。」
「この2人は?」
「マーキュリー伯爵夫人の用心棒だって。
リディアは誘拐実行班だから、姿が確認しづらいのかもしれない。」
「・・・なるほど。」
イヴの納得した表情を見るや、エルが残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がる。
「ケイトとの連携は了承したわ。
リディアの情報を得たらイヴがケイトに伝えなさい。
さあ、行くわよ。」
「どこに?」
「城下町西区にある護衛団の駐在所。
スラム街の状況を聞き出すの。」
「・・・分かった。
行きましょう、エル。」
イヴがいよいよニードルとして動き出す。
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