第1話(1)

 魔術探偵を営んでいる魔法使いケイトは、自宅にある魔術探偵の事務室でイヴと世間話をしていた。

 王国内で語られている『手出し厳禁の危険人物5人』を教えてほしいと言うから、5人全て語ったところだった。

 それを聞いて蒼白としたイヴであったが、コーヒーを一口飲んで心を落ち着かせる。

 そしてイヴがケイトに

「ケイトは何か聞きたい事ってある?」

 と投げかけてきた。


 その時ふとケイトの脳裏に、未解決の案件が浮かび上がる。


 ケイトの最も嫌いな依頼である『人探し』だ。

 嫌いな理由は、見つかった時、対象者が無事であった事例は一割も満たないから。

 大概は死んでいるか、精神を病んだ、または肉体がボロボロになった状態で見つかる。

 行方不明になった日から、だいぶ日数が過ぎてから依頼されるのが大半だからだ。


 未解決の案件は、その中でも特化していた。

 行方不明になったのは十数年前などと言われると、さすがに『は?』となる。

 無茶ぶりにも程があるでしょ。

 ただ依頼者も

「無理なのは分かっている。

 だから期限は設けない。

 手の空いている時、気が向いた時に探してもらえればそれでいい。」

 と言ってきていたので、特に前金も請求しなかったぬるい一件だ。


 ダメもとでイヴに聞いてみるか。

「たぶん今は30代だと思うんだけど、リディアって名前の女性に心当たりない?」

 するとイヴが、

「・・・どこでその名前を?」

 と聞き返してきた。

 カップを置こうとしていた手が、カタカタと震えている。

 え、どゆこと?

 危険人物の名前教えた時より怯えてるっぽいんだけど?

 聞いたのはあたしだし、とりあえず正直に言うか。

「だいぶ前の話なんだけどね。

 リディアのお兄さんって人が探してくれって依頼に来たのよ。

 行方不明から十数年経っているって理由だから、前金無し、手の空いた時に探す、期限は無期限って感じのぬるい依頼だけどね。」

 イヴは、カップに残っていたコーヒーをグイっと一気に飲み干すや、

 フゥー!

 とデカい息をついてケイトを見据える。

「私ね、ニードルで働く事になったって言ったでしょ。

 今着ている服を渡された時に、ターゲットリストも渡されていたのよ。」

「それって要は極悪人リストよね?・・・ってまさか!?」

 イヴが静かに頷く。

「推定年齢30代半ば。

 スラム街にたむろしている子供たちを誘拐し、奴隷商に売りつける魔女の名が、確かリディアって名前だったわ。」


 今度はケイトが蒼白になる番だった。

 奴隷は、王国では死刑クラスの重大犯罪に扱われている。

 王国承認暗殺ギルド“ニードル”のリストに載っている者を探し出せなど、悪夢としか思えない。

 イヴはケイトに同情しながらも、

『私も探さなきゃいけないのよね。』

 と内心ため息出まくりであった。

「あたしも仲間と探してみるから、何か分かったら連絡するわ。」

「あ、ありがと。

 ・・・仲間って?」

「仕事の時は、必ず2人1組で動くようにって言われたのよ。

 まさかニードル序列1位の実力者と組まされるとは思ってもみなかったけど。」

「序列1位って、まさかエルと?」

 イヴが目を丸くする。

「・・・有名人なの?

 あたし、まだ会っていないんだけど。」

「家の事情で知ってるの。

 姿を見たら驚くと思うわ。

 同じ人物を探す事になるなら、エルに宜しく言っておいて。

 こっちでも何か掴んだら教えるようにするから。」

「分かった、伝えておくわ。」

 ぬるい感じの依頼がとんでもない依頼になってしまったと、天を仰ぎたくなるケイトであった。

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