第11話 崩壊

 私はようやく、白宮しろみやさんに女装のことを伝えることができた。

 その上、白宮さんのことをもっと知れたし、白宮さんに心を開いてもらえたような気もする。

 今の私たちの関係には、どんな名が相応しいのだろう。



――数時間後

 先程の白宮さんとの会話の中で、1つ、思ってしまったことがある。

 白宮さんに、私のことを見てほしい。

 白宮さんは今、自分のことについて、よく考えてくれている。そうさせたのは私だ。

 私の彼への思いは、もう伝えたはず。けれども、彼の私への思いは、謎に包まれたままだ。

 白宮さんは、私のことをどう思ってくれているのだろう。私のことを、ちゃんと見てくれているのだろうか。

 今までずっと言いたかったことは、言えた。でも、もっともっと、仲良くなりたい。そのために、私のことを見てほしい。そう思った。

 シンスタのアプリを開き、白宮さんとのトーク画面へと進んだ。

 過去に白宮さんとした会話が表示される。随分前のことのようにも感じるし、昨日のことのようにも感じる。

 なんて話しかけようか。そう考えていると、トーク画面が動いた。

朝倉あさくらさん、今、時間ある?』

 心臓がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。

 私は、すぐに返信をした。

『うん、あるよ! 丁度白宮さんとお話したかったんだ!』

『良かった。特に話したいことがあるわけじゃないんだけど、なんか、話したいなって思って』

 私をアピールできる、大きなチャンスだ。

『そう言ってくれるの、嬉しいな! あ、そうだ、MIDNIGHTの曲、聴いた?』

『うん、マリオネット、良かった』

『でしょ! 私ね、結構前から好きなんだ。白宮さんも、結構ハマりそう?』

『うん、僕も好きかもしれない』

『良かったー! 嬉しいな!』

 私の好きなものを、白宮さんにも好きになってもらえる。ただそれだけのことなのに、一瞬、私たちの仲が大きく深まったかのように感じてしまった。

『あ、朝倉さん。僕、ウィッグについて、色々調べてみたんだ』

 どうやら白宮さんは、もう女装についての情報を仕入れているようだ。

『へー! どういうのがあるの?』

『これとか、僕に似合うかな』

 画像が届いた。

 少し茶色がかった、黒色のロングボブのウィッグだった。白宮さんがロングボブになったら、もっとかわいくなるに決まっている。

『白宮さん、似合う似合わないじゃなくて、自分が好きなのを選んで!』

『でも、似合うか知りたい。僕、女装するの初めてだから、不安なんだ』

『そんなに怖がらなくても大丈夫だよ!』

『朝倉さんの意見を聞いてからじゃないと、できない』


 それで、いいんだ。


 ……


『とっても似合うと思うよ! 私、ロングボブの白宮さん、見てみたい! 絶対かわいいよ!』

 なりたい自分になってほしい。誰かが、そう言った。

 でも私は、ただ、白宮さんに頼ってもらいたい。白宮さんと仲良くなりたい。白宮さんに、私のことを見てほしい。

 やっとここまで来たんだ。ずっと、白宮さんの女装姿が見てみたかったんだ。でも、それで終わるだなんてことはない。


 これからの白宮さんは、私が作る。


 白宮さんを、不安になんてさせない。

 今の私になら、それができる。

 白宮さんには、なりたい自分になってほしい。それが、彼にとっての幸せのはずから。でもそれは、私の大好きの上で。

 「かわいいは超かわいいに、超かわいいは大好きになる」。それだけじゃない。

 「大好きは、かわいいになる」。私の大好きの上で、白宮さんには「かわいい」を知ってほしい。

『ありがとう。朝倉さんが言うなら、大丈夫だね』

『うん! じゃあそれ、買っちゃう?』

『そうだね。そんなに高くもないし、買うことにする』

『やったー! 届いたら教えて!』

『うん』

 今までの私は、よく、頑張った。

 やっと、白宮さんの女装姿が見れる。私の白宮さんの1歩目が、もうすぐだ。


 私も、1歩目を踏み出さないとだね。

 「私が作った白宮さん」、それだけじゃ、足りないよ。

 白宮さんには、私のことを見てもらわないとなの。


 私が書いた、宝の地図。白宮さんに、あげる。



 ……はるくんなら、「お宝」、見つけてくれるよね?

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