第8話 入手

「でさ、あそこでアーシェアが……」

「そう、すごいわかる。あんなの、泣くしかないよね」

「……」

「……」

 先程から、白宮しろみやさんと凛々子りりこちゃんが、ずっとこの調子でいる。

 結希ゆきちゃんも、彼らの会話の内容は分からないようだ。

「ねえ、結希ちゃん。この2人っていつ仲良くなったのかな……?」

「ね、すっごい相性良いみたいだね」

 2人に聞こえないような声量で、結希ちゃんに話した。

 まさか、こういった分かれ方になるとは思わなかった。だが、結果的に白宮さんはリラックスができているようだ。

 それに、私は結希ちゃんと一緒にいることができている。この状況は、誰にとっても良いものだろう。

「……ねえ、はなちゃん」

「ん?」

 結希ちゃんが、改まった様子で私の名前を呼んだ。

「……白宮くんのこと、どう思ってる?」

 こんなことを急に聞かれるとは、思わなかった。

「えっと、とってもかわいいと思う! 結希ちゃんも、そう思うでしょ?」

「かわいい……」

「うん、『かわいいは超かわいいに、超かわいいは大好きになる』。でしょ?」

 そう言うと、結希ちゃんは安心したように笑った。

「……うん、そっか、そうだね」

「えっと、急にどうしたの?」

「いや、何も。私の大好きな華ちゃんだもん、大丈夫、だよね」

「う、うん……?」

 私には、結希ちゃんの表情に現れていたものを、感じ取ることができなかった。



――30分後

 私たちは昼食を摂り終え、ゲームセンターへ向かうこととなった。凛々子ちゃんの目的がそこであったらしい。

「結希、ティプリやる?」

「あ、そう! カード持ってきたんだった! 凛々子ちゃんも持ってきてる?」

「うん、やる?」

「そうだね! 華ちゃん、白宮くん、ちょっと行ってくるね!」

「はーい!」

「また後で」

 ここで、元々の2人ずつに分かれた。

 白宮さんとゆっくり話せる機会は、貴重なものだ。

「白宮さん、どう? 私、労いできてる?」

 私は白宮さんに話しかけた。

「あ、うん、そうだね。楽しめてるよ! 朝倉あさくらさんと話す時間は、ちょっと少なくなっちゃったけどね」

「やっぱりそうだよね……もうそろそろ解散だろうし、今は2人で遊ぼっか!」

「う、うん。UFOキャッチャーとか見てみる?」

「そうだね!」

 白宮さんと仲良くなれるのは、私にとって良いことだ。ここでより仲良くなることができたら……

 もう、「あれ」を言うことができるかもしれない。

「白宮さん! 見て! ウーパールーパー! かわいい!」

「か、かわいい……?」

 ウーパールーパーのぬいぐるみを見つけた。

 とってもかわいい。それほど大きくないため、なんとなく取れそうだ。

「白宮さん、やってみない?」

「え、僕が?」

「うん、見ててあげる! アドバイスもしてあげる!」

「え、わ、わかった。取れたら、いる?」

「大丈夫、白宮さんが取ったものは、白宮さんのもの!」

「そう?じゃあ……よ、よし! 取るぞ!」

 白宮さんが、UFOキャッチャーにチャレンジすることになった。白宮さんも、見ているよりはやる方が楽しいだろう。

 ここで私が盛り上げることができれば……

 ……

「え、え? え、取れるの?」

「え! 取れちゃった?! 白宮さん、おめでとう!」

 100円で取れてしまった。私が盛り上げることはできなかったが、盛り上がりはした。

「なんだろ、これって取りやすいのかな……? 朝倉さんもやってみたら?」

「そうだね! 私が取れたら、お揃いだね!」

「え、おそろ、え……」

 白宮さんは、顔を赤くしてこちらを見る。

 稀に見る白宮さんのこの表情が、私は好きだ。本当に、かわいいから。

「よし! 取るよ! 見ててね!」

「が、頑張って!」

 ……

 ……

 ……

 30回ほどプレイしただろうか。全く取れる気配がない。まるで、私がウーパールーパーに嫌われているかのようだ。

「し、白宮さん……取れない……」

「えっと、僕が、やってみる?」

「うん……」

 自分でも、自分が涙目になっていることを感じることができた。

 ウーパールーパーも、私のことが眼中にないかのように感じる。

「あ、朝倉さん……とれ、たよ……」

「!?」

 何故だろう。

「あ、ありがとう……! 白宮さん!」

「う、うん、良かった、ね」

 良かった、のだろうか。

「僕のはピンクだけど、朝倉さんのは黄色っぽいね」

「そうだね、どっちもかわいい!」

 結果的に、入手することはできた。だが、どちらも、白宮さんが取ったものだ。

 私が貰ってしまって、いいのだろうか。

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