第2話 親睦


︎︎○

 僕はいつもより早く家を出て、学校へ向かった。

 今日は、鈴木すずきさんから物を借りるという重大な任務がある。これは朝倉あさくらさんのためだ。必ず、やり遂げなければならない。

 物を借りると言っても、やはりおまじないとかに使えるものの方が良いだろう。となると、文房具で大丈夫だろうか。では、どのようにして借りよう。明日まで借りておくには、何かしら特別な理由が必要だ。僕のシャーペンが壊れたことにして、鈴木さんの予備のシャーペンを借りる、という理由で良いだろうか。

 そんなことを考えていると、学校に到着した。教室へ入り、自分の席に向かう。

 よし、言うぞ。

「あの、鈴木さん」

「ん?」

「昨日の夜、シャーペンが壊れちゃったっぽくて。もし予備とか持ってたら、貸してもらってもいい?」

「大変ね〜、えっと、はい、これでいい?」

「うん、ありがとう、助かる」

 良かった。変な言い訳を言わずに済んだ。あとは、明日まで借りていていいか許可を取らなければいけない。

「あの、これ、明日も借りてていい? ちょっと今日は買いに行けなくて」

「んー、いいよ〜。別に明後日とかでも全然」

「ありがとう、なるべく早く返す!」

 これで任務は達成だ。鈴木さんは、やはり優しい人だ。そんなに仲がいいわけでもない僕にでも手を差し伸べてくれる。朝倉さんが鈴木さんと対面したら、彼女はどうなってしまうだろう。



――放課後

 放課後になり、いつものように、僕は校門から少し離れたところで、朝倉さんを待った。特別な関係ではないとはいえ、誤解を招くと面倒だからだ。

 少しすると、朝倉さんの姿が見えた。

「あ、朝倉さん! こんにちは」

白宮しろみやさん! こんにちは!」

「鈴木さんから、シャーペン、借りてきたよ」

「あ! 借りてきてくれたんだ! ありがとう!」

「えっと、はい、これ」

 僕は、鈴木さんから借りたシャーペンを朝倉さんに渡した。

「わぁ! すっごいかわいい! え、何このくまさんの柄! 鈴木さん、こういうの使ってるんだ! へぇ! もうちょっとシンプルな感じのを想像してたけど、こんな感じなんだね! ちょっと意外! でもこれはこれでありかも!」

 プレゼントを貰った子供のようにはしゃぐ朝倉さんを、僕は親のような気持ちで温かく見守っている。

 ぜひとも、朝倉さんには頑張ってもらいたいと思う。

「……あ、ごめん、違くて、ごめん、勝手に、あ、あ、違くて、ごめん……」

「え、っと、全然大丈夫だと思うよ! 鈴木さん、優しい人だから」

 朝倉さんが足を止め、呟くように言った。一体、どうしたのだろう。鈴木さんのことが好きだということを感づかれるのが、嫌だったのだろうか。

「あ、あ、えっと、ごめん、これ、明日鈴木さんに返してあげて! ありがとね!」

「え、返しちゃって大丈夫なの?」

「うん! 鈴木さんのこと、ちょっとだけ、わかったから!」

 おまじないは、いいのだろうか。ただ、どんな物を使っているのか、知りたかっただけだったのか。

 そして、止まっていた足が動き出す。

「そういえば白宮さん、鈴木さんと、仲良くなれた?」

「え?」

「私は、鈴木さんがどんな物を使ってるのかが知りたくて、白宮さんは、鈴木さんと仲良くなれる! 一石二鳥だと思って、昨日、お願いしたんだ! それで、どう?」

 なるほど。そんな意味が込められていたのか。やはり、僕には鈴木さんとの仲を深めてほしいのだろう。

「そうだったんだ! でも、そんなに会話は発展しなかったし……あんまり、かな」

「そっか、うーん……」

「それじゃあさ、僕、鈴木さんと仲良くなれるように、これから頑張ってみようかな!」

「おお! やっぱり、鈴木さんかわいいもんね、仲良くなりたいよね!」

「そ、そうだね……!」

 やはり、朝倉さんは僕に感づかれるのが嫌なのだろう。ここは朝倉さんに合わせるのが吉だ。

「楽しみだな、仲良くなれたら、鈴木さんのこと、教えてね!」

「うん、わかった」

「あ、白宮さん、それとさ」

「?」

「私たちも、前よりちょっと、仲良くなれた、ね!」

「え、え、う、うん!」

 朝倉さん、よく平気で、こんな小恥ずかしいことが言えるな……

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