第3話 意識
〇
――翌日
僕は、鈴木さんと仲良くなるために、まずは鈴木さんのことについて、知ることにした。
以前のシャーペンの件で、鈴木さんは意外にも、かわいいものが好きということが判明した。ならば、そこから話を広げ、鈴木さんの好みを聞き出してみよう。
「おはよう、鈴木さん」
「おはよ〜」
「鈴木さんって、あんな感じのシャーペン使ってたんだね。ちょっと意外」
「ああ、あれはただ、シンプルすぎるのが嫌だったから買っただけ。ああいうのばっか買ってるわけじゃないよ」
「え、そうなんだ、てっきり好きなのかと……」
「別に嫌いでもないけどね」
作戦を始める前に失敗した。鈴木さんは、かわいいものが好きというわけではなかったのだ。
ここからどう話を広げようか考えているところで、鈴木さんが話題を振ってきた。
「そういえばさ、なんで私から借りたの?
少し痛いところを突いてきた。
「鈴木さんのが良かった、とかじゃなくて、ただ、席が前だっただけだから。そ、それだけだよ」
人に頼まれて借りた、と正直に説明するわけにはいかなかった。
「ふーん……私のが良かったんだ〜!」
「え、え? いや、だから……」
「正直に言えばいいのに〜、別に引かないよ?」
「ち、違うよ!」
変な風に誤解されてしまった。しかし、現状特に困ることはないため、そういうことにしておいても、問題はない。
と思っていたところに。
「
「ほんとだ! 白宮くんかわいい〜」
鈴木さんの友達の
「……」
「ねぇねぇ
「へへ、白宮くん、美織ちゃんのこと……」
「違う! それだけは! 違う!」
流石に、ここまで誤解されてしまってはまずい。どうやって説明しようか。
「違うの? 陽?」
そういって、鈴木さんは僕の目をじっと見つめた。
「う、うん。違うよ……」
「ふふっ、そっか〜、あれ、次社会だっけ?」
「そうだよ〜」
「あそっか、取りに行かないと」
「私たちもだ、愛羽」
「うん」
鈴木さんたちは、この場から離れた。
なんとか、誤解は解けた。だから、もう安心していいはずだ。そのはずだが。
何故か、心臓がくすぐったい。まるで、誰かに触れられているかのようだ。
――数時間後
美術の授業は、絵画室で行われる。班ごとに分かれて席に着くため、僕の隣の席には鈴木さんがいる。
このチャンスを逃してはいけない。今まで、鈴木さんの作品に注目することがなかったため、それについて会話をすることがなかった。だから、今日は、鈴木さんの作品を見て、そこから話を広げることができる。
今の僕たちの課題は「絵文字」だ。選んだ1つの漢字の1部に、その漢字の意味やイメージを組み込んで絵として描く、というものだ。
となれば、どの漢字を選んだか、という質問ができる。
「鈴木さんって、漢字何にしたの?」
「猫」
「おお、かわいらしい。理由は?」
「それしか思い浮かばなかっただけ〜」
本当にそうなのだろうか。普段の鈴木さんの少しのんびりとしたような様子だと、もう少し色々な発想が生まれて来そうだと思うが。
「陽は?」
「破」
「ふーん、流石中学2年生だね! かっこいい!」
「しょうがないじゃん! これしか思い浮かばなかったの!!」
「私と同じじゃん、まあそんなもんだよね〜」
鈴木さんと、同じ。そう聞くと、何故か安心した。
「ちょっと見せて!……えー、すっごいボコボコじゃん。パンチしたっていう設定?」
「ま、まあ」
「なるほどー、流石中学2年生!」
「だから! そういうのじゃないって!!」
「ふふっ」
工藤さんや青山さんに、かわいいと言われることは毎日のようにある。だから、からかわれるのには耐性が付いたはずだ。
なのに、何故だろう。こんなにも、心が震えているのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます