第1章 「僕」と「私」
第1話 約束
︎︎︎︎○
僕たちは、出会ったその日以来、一緒に帰るようになった。
そこまでは理解できる。だが、何故僕なのだろう。僕と一緒にいて、楽しいのだろうか。自分の人生を楽しんでいる彼女に、僕という存在が不要ではないのか。そう考えてしまう。
ただの暇つぶしとでも思ってもらえるならば、それで十分だ。だが、もしそうでないのなら……。
「白宮さん、4組って、楽しいですか?」
「そうですね、みんないい人ですよ!」
僕には友達がいない訳ではない。人と話せない訳でもない。学校生活は、それなりに楽しめている。
「そうなんですね、4組だと……あ、
「え? まあ、優しい人、だとは思います……」
本当のことだ。
「そうなんですね! 実は話したことがなくて……でも、すれ違った時とかには目が奪われちゃうんです!すごいですよね、鈴木さん!」
「で、ですね」
さっきから朝倉さんの勢いがとてつもないことになっている。そこまで彼女のことが気になるのだろうか。
「鈴木さんとは、仲良いんですか?」
「1年生の時に同じクラスだったんです。でも、それくらいです」
「そんな! 勿体ないじゃないですか! せっかく2回も同じクラスになれてるのに……」
「え、え……? そ、そんなに、ですか?」
「そうですよ! 私だったらもう耐えられませんよ! うーん、あ、そうだ、明日! 明日、鈴木さんから何か物を借りてきてください!」
一体どうして、ここまで鈴木さんに執着しているのだろう。いきなり鈴木さんの物を借りてこいなどと、何を企んでいるのだろう。呪いでもかけるつもりなのか……
そこで、僕は気付いた。朝倉さんは、鈴木さんのことが好きなのだ。鈴木さんと繋がるため、彼女と同じクラスの僕と仲を深めようとした。そして、鈴木さんから借りた物を使っておまじないでもするつもりなのだろう。
そうだ。そうに違いない。ならば、朝倉さんのために、最善を尽くさなければならない。僕はそう思った。
「わ、わかりました……試してみます」
「ふふ、ありがとうございます!」
ほら、感謝の言葉をくれた。やはり、そういうことなのだろう。
「あの、朝倉さん」
「はい!」
そして、僕は、少し前から思っていたことを言うことにした。
「もし良かったら、敬語で話すの、辞めませんか?」
朝倉さんが元々敬語で会話する人なのかもしれない。だが、僕の方がもう限界だったのだ。
「あ、はい! 白宮さんは、大丈夫なんですか?」
「はい、むしろ、その方が良いかな〜って……」
「わかりました! では、早速! 改めて、よろしく、ね!」
「うん! こちらこそ!」
一体僕たちは何をしているのだろう。まるで付き合い始めた男女のようだ。なんだか恥ずかしい。
「あ、もう家だ、じゃあまた明日! 鈴木さんの件、お願いね!」
「わかった、またね!」
なんだ。朝倉さんも、こうして話す方が楽そうじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます