浅ましい人間

「やっぱり腹心の友だな。」

そう言う孝は腹心の友を今さっき失い掛けたが、彼らの友情はいささか混沌としていて、直美が間に入ってなんとかしてくれればもとどおりに復元出来る筈だった。

が、いつまで立っても功太は戻って来ないし、半ば就寝仕掛けの直美と美代を300号室へ送り届けて一人になった孝は窓から白馬のゲレンデを覗いていた。

水銀灯の灯りが昼間の様に明るかった。

四六時中休まず回転するブルー、レッド、グリーンホワイト、リフトのボディーカラーが鮮明に写し出されていた。

ふと水銀灯に照らされた観たこと有る、見慣れた男?夕方孝を訪ねてきた来客だった。

「まだ、白馬に?」

「しつこい奴!」

やえちゃんを抱いた事を思い出してこれから詳しい話をしようとしていたのに向こうが、立ち去ったんだぜ?

口に出したが、向こうに聞こえる筈もない。

ふと、やえちゃんの息子反町玲音がこっちを観たから咄嗟にしゃがんだ!

丸坊主!

「此処が見える筈もないのに、人間とは浅ましい動物です。」

恩師の篠山教授の言葉を思い出していた。


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