第2話 消毒完了。

「体温計はケースから外して、ケースの中も消毒。薬は……トローチが残ったのか。袋の上から消毒、と。ゴミ箱の中身はゴミ袋ごと捨てちゃって、と」


 持ってきた45Lゴミ袋に中身を入れ替えて、ゴミ箱も外も中も消毒。

 ひとりがけの椅子、ひっくり返して机代わりにしていた籠ももちろん消毒。


「汗拭きシート、買った割にあんまり使わなかったのかな。減ってないや。初日に運び込んだ御菓子類は全部食べちゃったみたいね。よかった。残されても困ったもんな」


 本人もそれを察して全部食べておいたんだろうね。偉い。


「昨日差し入れたゲーム機もしっかり消毒して、と。鞄も消毒して干しておくか」


 帰ってきた初日にそのまま寝室に夫と一緒に閉じ込めたリュック。中身も消毒し、リュック自体も消毒し、ベランダの雨が当たらないところに吊り下げておく。


「ペットボトルも燃えるゴミに捨てて、ティッシュは箱を消毒の上、何枚か引き抜いたぶんを捨てて、と」


 荷物の消毒が終わったら、布団をたたんで脇に避けて、床の消毒。寝室の床は防音用にジョイントマットを敷いているので、正しくはそれを消毒という感じ。マット一つずつ消毒液を吹きかけ、拭いていく。


 湿度が高いせいですでに汗だく。おまけにアルコールの臭いがマスクの隙間から入り込んできて普通につらい。マスク二重でもこれだもんなぁ。この部屋、絶対にアルコール臭いでしょう。


「――さて、消毒終わり。しばらく扇風機回しておくか」


 昼にはアルコールの臭いが飛んでいるといいなぁと思いつつ。カーテンは乾いたので束ねて、窓は全開に。


「寝室は窓が一箇所しかないのがネックやな。扉とは直線の導線とはいえ。しばらく開けっぱなしだわな」


 雨が小雨程度でよかった。大雨だったら吹きこんじゃうからそうそう開けていられなかったし。


「あー、疲れた」


 部屋中のあらゆるものを消毒するって本当に神経を使うわ。


 ――でもそれも、これで終わり。


 そう思うと感慨深いというか、よくやったという気持ちになって、しばらく床に座ったままぼーっと扇風機の風に当たってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る