第4話 手荒れ出現。

 帰宅した夫。まっすぐ寝室に入ったことを確認してから、わたしは二重マスクにビニール手袋、消毒を片手にといういつものスタイルで廊下に出る。

 そして着替えが入ったバッグに消毒液をシュシュシュシュシュと、親の敵を殺す勢いで吹きかけた。


「こんなもんかな。よし、洗濯機にそのままぶちまけてしまおう」


 ということでバッグを逆さにして作業着やらなにやらを洗濯機へ。おおう、夫の作業着がクソ臭う季節になったなぁ……くっさぁ……。


 洗濯機ちゃんにしっかり洗ってもらいながら、わたしも子供たちにご飯を食べさせ、歯磨きさせて、洗い物して寝支度~。


「夫氏~、消灯時間前のトイレどうぞ」

「はーい」


 一人部屋でくつろいでいた夫、どっこいしょと昨日までよりはスムーズに立ち上がってわたしのうしろをついてくる。

 狭い廊下で扉を開けたり閉めたりということを日々くり返してきたせいか、こっちを閉めるときはこっちに立つ、こっちを開けるときはこっちに立つ、みたいなのがスムーズにできるようになってきた。


「会社はどうよ。みんなきてた?」

「何人か休んでいたけど、八割の人間はきてたよ。一番早かったのはベトナム人従業員で、おれと一緒に土曜日に発熱していたけど、熱下がったからって月曜にはもうきてた」

「早すぎっ。仕事熱心やね」


 だからこそ、その日はまだ無症状で、普通に仕事にきていたほかの従業員にウイルスをまき散らしていた可能性もありそうだけども……。


「昨日には半分くらいきてたみたいだから、おれはゆっくりしてたタイプだったかな」

「家庭もあるし、そこはしかたないことだと割り切っていただいて、だよ。でも会社のシャワー室を使えるようになったのは本当によかったよね」

「シャワー室くらい全然使えってさ~。それより納期やばいから日曜も仕事になりそう」

「あー、でもまぁ、そもそも社員旅行で五日も会社ストップしていたし、その上でコロナでスロースタートだから、そりゃあそうならざるを得ないよね」

「別に仕事行っても大丈夫だよね?」

「大丈夫だよ。家にいても家族でお出かけはまだできないし、またあちこち消毒が必要になってわたしが大変だから、仕事行ってくれていたほうが正直助かる」

「だよね」


 ということで日曜日も無事に家中消毒のキェエエエからは解放されそう。ふふふ、やったわ。


 とはいえ消灯時間のこの消毒だけは免れないのが悲しいけれども。

 用を足し終えた夫を見送り、飲み物を差し入れたあとは、いつも通りビニール手袋にマスク二重のフル装備でひたすらトイレ掃除。


「暑い~、茹だるわ、まったくもう。……って、なんじゃこりゃああ!」


 手首がかゆいなぁ、と無意識に引っ掻きながら見てみたら、両方の手首にびっしりと赤い湿疹ができていたわ。絶対に汗疹あせもかなんかだああああ!


「というか、手の指のあいだがやばいんだけど。めっちゃ皮が剥けてるじゃん」


 日焼けが収まったあとみたいに、うっすーい白い皮がふにゃふにゃっと剥けはじめていたわ。


 汗疹は手袋したときにできる汗のせい、手指の皮むけは消毒のしすぎのせいだとすぐにわかって、思わずくら~っときちゃったよね。


「たった一週間でこうなるんだから、現場の医療関係者のことを思うと涙が出るな……」


 そして夏場だけにハンドクリームが見当たらない。明日またウメキヨに買いに行かなきゃだわ。

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