第2話 夫のありがたい申し出。
「毎日消毒するのもゆかさんが大変すぎる、おれ明日から風呂は会社のシャワー室で済ませてくるよ。夕飯も外で食べてくるわ」
「……マジで!? いいの!? わーい!!」
思わず万歳三唱したくなるほど嬉しい申し出。会社にシャワー室があってよかったあああ!
「朝もさ、着替えを差し入れてくれれば、おれ寝室からそのまま出かけちゃうから」
「OK。じゃあさっそく作業着を持ってきておくわ。シャワー後の着替えもだね。朝ご飯はどうする?」
「うーん……負担じゃなければおにぎりとか作って、夜のうちにこっちに持ってきてもらえば。それ食べてそのまま行くよ」
「風呂場の全部を消毒に比べたら握り飯くらいまさに朝飯前ってもんよ! 待っておけよおおお!」
速効で寝室を出て、夫の作業着、替えの下着、衣服、荷物、タオルなど持って行ったよね。小躍りしたい気分で胸がいっぱい。
「おにぎりは保冷剤とかと一緒にしておいたほうがいいかな?」
「いやぁエアコンずっと効いている部屋にいるから大丈夫っしょ」
「いやいや湿気がヤバイこの時期だけに食中毒が心配じゃん」
「大丈夫っしょ~」
くっ、心配してやっているのに軽い口調で言いやがって。そのまま食べろ畜生め。
実際に翌朝になったら「ごめん、ベルトも持ってきて」とか「靴下ある?」とかいろいろ聞かれて、不備がありまくりじゃんと笑えたけれど……。
夫が無事に玄関を出る気配がして、思わず「ぃやったあああああ!」と歓声を上げてしまったわ。
「だが、ぬか喜びはできねぇ。ママ階段の手すりとかドアノブとか消毒してくるから、子供たちよ朝ご飯を食べちゃっててえええ!」
「はーい」
いつもの二重マスクにビニール手袋姿で消毒液をひっつかむ母を、子供たちももう慣れたとばかりに適当に見送る。
朝から玄関のノブ(と言わず扉全面)を必死に消毒し、階段の手すりや寝室のドアノブも拭きまくって、ようやくほっと一息。
朝に夫と顔を合わせず会話もしないというのは不思議な感じではあるけど、今日明日はこれで乗り切れる……!
とはいえ疲れていたのは、わたしだけではなかった模様。
2023年6月30日(金)、めずらしく息子のほうから「ママ、今日は遅刻したい」との申し出があった。
「あら、どうしたん?」
「ちょっと疲れちゃった。今日は塾もあるから、中休みから行きたい」
あぁ~……確かにねぇ。今週は湿気もやばかったし暑かったし、今日に至っては雨だし。
金曜日ということもあって疲れているよね。わかるよ。
ということでアプリから遅刻の連絡。息子がそんな状態なので娘も当然のように「じゃ、おれも中休みから」と堂々と宣言してきた。ちっ、渡りに船とばかりに。
というわけでわたしが朝の家事をこなすかたわら、子供たちは一緒にゲームなどしてのんびりしてから、わたしの運転で学校へ行きました。
娘なんかは「えぇ~やっぱりあと一時間のんびりする」とか平気で言うけど、息子はそういうことはなくすんなり登校。偉すぎるな。
家に帰ったらわたしは久々の……久々の、家にわたし一人という至福の時間……!
あまりに嬉しすぎて、しばらく居間に大の字になってしみじみとしてしまった。なんという麗しき贅沢な時間かな。あーあ、あと30時間くらい一人になっていたい。
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