第9話 わたしが不調なんですが。

(やばいやばいやばい、なんか吐き気がすごいしてくるんだが……)


 とうとうわたしもコロナに感染したか……? あまりに恐ろしい想像にぞーっとして、ついいつも以上に消毒しまくってしまう。下校時に迎えに行った子供たちにも「早く手を洗いなー!」と叫んでしまうほど。


「ごめん、ママちょっと気持ち悪くて。晩ご飯はコンビニでいいかな?」

「いいよ~」


 あっさりうなずく子供たちに感謝しつつ、コンビニに車を走らせ、それぞれの好物を買い込む。

 夫の晩ご飯はちょうど昨日のおかずの残りが一人分あったので、レンチンして提供。


(うえ~、ご飯を食べても気持ち悪いの治らん。どーしよ。マジでコロナに罹っちゃったかな?)


 だとしたら校正原稿を今日中に戻したわたしグッジョブだぜ。うえぇぇえ、気持ち悪いぃぃ……!


「これだけ消毒しているのに足りなかったかなぁ? なんかもう自分が頭からアルコール被りたいくらいの気持ちなんだけど」


 あちこちにシュッシュッシュッと吹きかけながらも泣き言を漏らしてしまう。

 ウイルスという目に見えないものと戦うのがこれほどきつく恐ろしいこととは。ビニール手袋に包まれた手はすごくかゆいし、二重マスクだから呼吸も苦しい。


 これ以上の重装備で、医療従事者の方々はもう三年もコロナと戦っているわけでしょう? ほぼ拷問みたいなもんじゃん。

 特に暑くて湿気がやばすぎる今の時期! そりゃあ離職者が大量に出るのも当然だよね……。マジでやっていられないもん。こんなん暑すぎるし、つらすぎるし、きつすぎる。


「それでもなお前線に出てコロナと戦っておられる方々を本当に心から尊敬する……。わたしはもう四日でいやになっている。いつまでこんな消毒とか続ければいいのマジで」


 泣きそうになりながらとにかくシュッシュッシュッとやり続け、拭き続け、手を洗い続け……あぁあああ、このルーティンにも飽きた!


 トイレ掃除も誰かが使うたびにしまくっているから、我が家のトイレ、見た目だけならかつてないほど毎日きれいで清潔!

 でも菌がどっかにあるかと思うと、恐ろしくて用を足すのも命がけだよぅ……。


「はぁ、はぁ、本当に気持ち悪いの治らない。単にノートPC画面を久々に凝視しまくったせいだと思いたいけど、そうじゃなかったらマジどうしよう。うぅ、熱はないけどなぁ……」


 ピピピと鳴った体温計の表示を見てみると、ごく普通の平熱36.4。大丈夫だとは思うけれども、こういう事態の最中だと、ちょっとした不調でも怖くなるからタチが悪い。


「夫氏も体調どうよ? 熱は?」

「んー、たまに37度台になるけど、まぁないのとほぼ変わりない。腰痛はあいかわらずだね」

「喉は?」

「痛いっちゃ痛いけどだいぶマシ」

「頭痛は?」

「忘れかけた頃にいきなりきたりするけど、ずっとじゃないからマシ」

「咳は?」

「たまに痰が出る関係上しちゃうときも多いけど、だいぶマシ」


 ほぼほぼ「だいぶマシ」という感覚的なもので説明する夫氏。そして感覚的に動けると思っているので、暇を持てあましている様子。


「工場も今日から動いているし、その気になれば仕事もできると思うんだけどね。納期もそこそこやばいし」

「うーん……5日は動くなとは思うけれども、感染力の強さという点においては、会社の人間がほぼ全員感染者だと思うと気にしなくていいという利点があるんだよなぁ」


 ほかのひとに移さないように気をつけて……という点が、家にいるより会社にいるほうが圧倒的に気にしなくていいので、なんか仕事に行ってもらったほうが安全じゃないか? という錯覚をしそうになる。


「でも駄目だよ、行かないで。後遺症が怖い。若者でその後に後遺症が残るひとって、たいてい感染してすぐの頃は軽症で済んじゃって、休んだぶんを取り返そうとがんばって動いちゃうから、そのせいで新たな不調が一気にきましたっていう感じだから。やっぱり5日は休まなきゃ駄目」

「へーい……」

「暇そうやね」

「さすがにね、やれることもないしね」


 スマホという文明の利器があるとはいえ、一日中それをいじっているのも限界があるよね。


「だが明日までは、明日までは家で療養してくれ。わたしも速めに寝るわ。気持ち悪いの寝れば治るかもしれん」


 ということで、その日はトイレや風呂場の消毒をこれでもかとしまくったあと、22時半に倒れるようにして寝た。横になると吐きそう。おえぇえ……。

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