第6話 佐倉は、お薬を、手に入れた。
「ウイルスの排出自体は10日間くらい続くの。今は外出制限とかはないんですが、それでも10日間はご家族も体調に気を配って、感染しないように気をつけて過ごしてください」
「わかりました」
「コロナに罹っている本人も、外出制限はないんですけどね。それでもなるべく5日間はあんまり出ないほうがいいかな。出るときは10日間はマスクをしてください」
「はい、出さないようにします」
「ま、とにかく水分補給をしっかりしてもらって、ゆっくり療養するのが大事ね。じゃお大事にね」
「はい、ありがとうございました」
立ち去っていくおじいちゃん先生の後ろ姿に深々と頭を下げる。
「じゃあ、お会計までさっきの椅子で待っていてくださいね」
「はい、ありがとうございました」
看護師さんにもお礼を言って、診察室を出る。待合室の外れの椅子で待っていると、お会計に呼ばれた。
5類になったことで、それまで無料だった医療費がかかるようになったということだけど……。
「1140円になります」
と領収書と処方箋を出す受付のお姉さん。普通に三割負担額って感じのお会計だな……。たぶんコロナの検査とかをやっていたら、もっとかかったんだろうけども。
道路を挟んだ反対側に薬局があるので、そのまま歩いて薬局へ。
お薬手帳とともに処方箋を受付に出し、結構ひとがいるなぁと思いつつ、なるべく端っこの椅子に腰かける。
「夫氏、起きてるかなぁ。一応LIMEしておこう。『今、内科を出て薬局。結構混んでいる』と……」
けれど窓口に呼び出されるときになっても既読はつかなかった。
寝ているのかな? ただ寝ているだけなら全然いいんだけど、急変して意識不明とかじゃないよね……?
(いやいや、さすがにそんな急変とかはないだろ、うん)
と平静を装い、受け渡し窓口へ。
「こんにちは。ええと、お薬を出された方のお名前と生年月日をお願いします」
「佐倉夫氏、昭和63年3月……何日だっけ? 4日か5日です」
息子の誕生日が8月4日だからか、毎度夫の誕生日は「4日だっけ? 5日だっけ?」とわからなくなる。ひどい妻だと我ながら思うけども。
「たぶん5日かな?」
「あはは、5日ですね。ええと、お薬いろいろ出ています。カロナールもありますが、あれですか、結構大変な風邪を引いちゃった感じ……?」
「あ、コロナ陽性です」
「あ、コロナでしたか。大変ですね。でも最近のコロナは若い方ならそうそう重症化しませんから、大丈夫だと思います。旦那さん喫煙の習慣とかは……」
「ないです」
「で、あれば、お薬を飲んで療養していただければ大丈夫だと思いますので」
医師もそうだが、薬剤師さんも大概いろんな患者を診ているのだろう。明快ににかっと笑って請け合ってくださった。
そして袋いっぱいに詰まった薬を一つ一つ解説してくれる。
「この薬は副作用で尿が少し赤くなりますが心配しないで大丈夫です。こちらの薬はちょっとお腹が緩くなっちゃうんですよ。トイレが大変かもしれませんが、薬を飲まなくなれば自然と治りますので、そちらも心配しないでください」
「わかりました」
「ではお会計はあちらのレジでお願いします」
ということで自動精算レジに移動し、お会計。770円。
(こんだけの種類の薬を5日ぶんももらっても、ウメキヨで買ったアセトアミノフェンより安い……)
これが医療費三割負担の力かぁ……と思いつつ。さくっと支払って薬をゲット。
そして夫にLIMEしてみるが、やっぱり既読はつかない。深く寝ているだけだろうと考え、そのまま買い物に行くことにする。
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