第5話 薬の処方、多っ……。

「旦那さん、大変ですね。奥さんも気が休まらないでしょう」


 先生がまだ診察中とのことで、案内してくれた看護師さんが話しかけてくれた。


「そうなんですよね~。一日もう消毒まみれですよ」

「そうなっちゃいますよね~。旦那さん、咳は大丈夫そう?」

「たまに痰が出るのでそれが絡んで出る、ってくらいで、咳き込んではいないです」

「あれは家にある? あれ……」


 と言いながら、看護師さんは自分の左手の人差し指を、右手で包むような動作をする。


「なんだっけ、ど忘れしちゃった。酸素濃度はかる奴なんだけど」

「あ、パルスオキシなんとかかんとか!」

「そうそうそれそれ! パルスオキシメーター! 家にある?」


 ――現役の看護師さんもパルスオキシメーターの名称を忘れるんだ!

『酸素はかる奴』でググったわたし、わりと普通だったかもしれん! と妙な勇気を得られたよね。


「ネットで注文して、夕方届く予定なんです」

「うん、なら安心だね」

「ちなみに見方ってどうすればんですか? 酸素濃度? でしたっけ? どういう数値になるとやばいんですか?」


 肝心のその辺の知識がないので、今のうちにしっかり聞いておかなければ。


「ん~、やばいというか、普通の状態だとだいたい数字は98くらいなのね。これが90の前半とかになると息苦しい感じになって……。旦那さん、息苦しさは訴えていない?」

「ないです」

「じゃあ大丈夫だとは思うけれど、一応使ってみてね」

「わかりました。とりあえず90前半になったら要注意という感じですかね」

「そうね。あ、でね、今はコロナに関する連絡先がここ一箇所に統一されているから、状態が急変した場合、午後はこっちの番号にかけてください。うちは午前中しか発熱外来やっていないから」


 看護師さんがなにか思い出した様子でプリントを渡してくれる。

 そこには『新型コロナ総合相談コールセンター』と赤字ででかでかと書かれていて、電話番号が載っていた。


「わかりました。午前中の場合はこちらに連絡して、それ以外の時間帯はこのコールセンターにかけるんですね」

「そうそう。とはいえ、旦那さん持病とかもないし若いから、そうそう急変はないとは思うんだけどね。ワクチンも4回打っているし」


 そのとき、奥のカーテンが開いて「はい、お待たせしました」とおじいちゃん医師がやってきた。

 もう問診票に書かれていたことで聞くべきことは充分という感じだったんだろう。単刀直入に「お薬を出しますね」と言ってきた。


「抗生物質、咳のお薬、気管支のお薬、炎症を抑えるお薬、それと喉の痛みがつらそうなので、うがい薬とトローチも出しておきます。そして、解熱剤のカロナールね。どのお薬も食後に一錠ずつなんだけど、結構熱が高くて大変そうだから、カロナールに関しては一度に二錠飲んじゃっていいからね」

「わかりました」

「ただね、カロナールは毎食後に二錠、二錠、二錠飲んで一日六錠ってなると、過剰摂取になっちゃうから、それだけ気をつけて。前の食事のときに二錠飲んだなら、次は一錠にして、その次は二錠、って感じで調整してください」

「わかりました」

「とはいえ今のコロナはまず重症化しません。お年寄りや持病を持っている方でない限り。旦那さんは若いからまず大丈夫でしょう。とはいえ、もし熱が下がらないとか、息苦しいとかあれば連絡して。息苦しさに関してはまた違う薬も出せるからね」

「ありがとうございます」

「それと、このプリントにも書いてあるけどね」


 テーブルの上にすでにプリントが出ているのに気づいたおじいちゃん先生、特にここを読んでという感じで注意書きをトントン指してくる。

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