第13話 すべてが面倒くさい。
家族がトイレに立つたび消毒、夫の様子を見に行くたびに消毒、という感じで、当然仕事なんかする気にもならずに、空いている時間は自分のメンタルを慰めるためにひたすらゲームばかりしちゃう。
たぬきの社長のもとで開発に励む無人島も、なかなか自分好みの島になってきたのぅ……なんて思っていたら、母からLIME電話がかかってきた。
『なに、夫君コロナになっちゃったの?』
「そうなのよ~。社員旅行で沖縄に行っててさぁ。見事にもらってきたよね」
『あらぁ~。まぁしかたないわね。移らないようにがんばんなさいよ。なんか手伝えることある?』
「ないない。今は5類で、感染した本人でも出歩いてOKな世の中だし、買い物とかもわたしが行けるから大丈夫だよ」
『ならいいけど……米、あんた米は? まだ足りるの?』
「それなー……」
ディーラーに行くついでに実家に寄って、米をもらってくる予定だっただけに、ちと先行きが不安。
「あと一週間は保つと思うから、なんとか大丈夫だと思う。落ち着いたらまた連絡するよ。ディーラーにもキャンセル連絡しなきゃだわ。今思い出した」
『あはは、そういうもんよね。じゃあお大事に~』
と母が電話を切ると同時に、ディーラーに電話をかける。
『お電話ありがとうございまーす! ○○自動車○×△店でーす!』
日曜の売り込み時だからか、やけにテンション高ぇ営業さんが電話を取ったっぽい。キャンセルの連絡するの、なんか申し訳なくなるな。
「えーと、わたし、そちらでお世話になっております佐倉紫と申します。明日の10時に車の部品交換のための予約を取っていたんですけどぉ」
『はい、佐倉様! ありがとうございます、いかがなさいましたか?』
「ちょっと家族がコロナ陽性になっちゃいまして」
『あら!』
「なんで、わたし自身は元気なのですが、これから感染するとも限らないので、ちょっと明日の予約はキャンセルさせてください。急ぎの部品交換でもないんで、落ち着いたらこっちから予約の連絡させていただきますので~」
『わっかりましたぁ! お大事にしてくださぁい!』
ということでキャンセルの電話終了。ホントにテンション高い営業さんだったな……。
「キャンセルしたらしたで、今度はまた予約を取り直さなきゃいけないのが面倒くさいよなぁ……」
今日一日「面倒くさい」という感想しか持っていない気がする。
そんな感じであっという間に日が暮れて、もう夕食時よ。
「ママ~晩ご飯なに?」
「うーん、とりあえず鯖の味噌煮」
「鯖味噌だ~」
鯖の味噌煮が大好きな娘はにっこり。別に好きじゃない息子は速効で「おれ、ふりかけご飯にするわ」と決定。はいはい、とりあえず食べればなんでもいいよ。
「夫氏は食べられるかなぁ?」
と思いつつ、平らなさらにご飯を盛り、鯖味噌煮を二切れほど盛り付ける。ラップを使って仕切りをつけて、キュウリの和え物も添えた。
喉がとにかく痛すぎてアクエーリを飲むのもつらい状態の夫……なんだけども、幼少期から、病気のときはご両親に「とにかく食べろ。気持ち悪くなって吐いてもいいから食べろ」と言われて育ってきたため、用意された飯は意地でも食うというスタンス。
平らな皿に盛られたものはしっかり食べきりましたとさ。食い意地とか、そういうレベルを超えている気がする。
「食べられるのはいいことだけども。……しっかし熱、下がらないね。ウメキヨ印のアセトアミノフェンじゃ太刀打ちできないってことか?」
食後、薬を箱から出してやりながら検温を促すと、死にそうな顔の夫が体温計を差し出してくる。しっかり39度のままだ。
症状も、発熱、喉の痛み、関節痛、腰痛、少し頭痛、少し咳、という感じで、まるで改善していない。
37度後半の熱でさえ「ちょっとくらい大丈夫っしょ」と仕事に向かうタフな夫でも、感染するとこうなるんだよな、新型コロナウイルス。
マジで絶対に移りたくない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます