第12話 食器で悩むとか聞いていない。
手をぶらぶらさせて早く乾けよ消毒液~、と念じながら、新しい手袋を嵌めて寝室へ。
冷たいうどんを希望されたので、ドアノブを消毒して手を洗ってビニール手袋を捨てて、また手を洗って消毒して冷凍うどんをチン……。
「やばい、電子レンジさわっちゃった」
いっさい消毒していないところを素手でさわってしまった。
この途端に感染の恐怖がぶわっと押し寄せて、あわてて手を洗いに行く。石けんで入念に、手首の上まで二回。
消毒のためにはしっかり手を拭かないといけないから……あ、フェイスタオルがもうびしょ濡れ……新しいのに替えないと……。
もう流しや洗面所に引っかけているフェイスタオルを替えるのも何回目だ? あ、もう残り五枚もタオルがない。早く洗濯しないと……!
あわててタオルやダスターを洗濯機で洗う。こいつらが乾くまで五枚でしのげるか?
いや無理だろ。バスタオル代わりにつかっている長いフェイスタオルも使うことを考えないと……。
「ええと、できあがった食事は使い捨ての食器に盛らないと。ええと、何年か前の台風のときに備えておいた使い捨て食器、どこに置いておいたっけ……」
しっかり消毒した上であちこちをごそごそあさって、使い捨ての紙の食器を引っぱり出す。
だがいずれも薄っぺらい感じのお皿で、うどんを盛るには少々浅すぎる。
「ご飯とか盛るのも、カレーならこれでいいけどな。そうじゃない限りこの食器は使いにくい……」
ということは、使い捨て食器も何種類か買ってくる必要があるか。
今は水分補給は2Lのスポドリを置いているが、食事のときは水とか麦茶とか夫も飲みたいよな? ペットボトルを買ってくるか、紙コップを買ってくるか……。
とにかくうどんの汁を少なめにして平らな紙皿にうどんを盛る。紙皿という頼りない食器のおかげで、持ち上げようとしたら皿が真ん中からぐにゃんとゆがんで、危うく汁がこぼれるところだった。
「あまりに心許ない食器……! 絶対にどんぶりタイプを買わないと」
晩ご飯もどうやって盛り付けよう、この平皿に。
くそぅ、食器にまで悩まされるとは思わなかった。使い捨て食器を使うという頭はあっても、食器の形状は何種類かあったほうがいいよ、とまで想像する力はなかったわ……!
「ああ、しかも両手で皿を持つと扉を開けられないぃい……!」
どうしようもなくて一時撤退。ダイニングから廊下への扉を開けた状態でうどんを運び、やむなくうどんを一度床に置いて、扉を閉め、寝室の扉を開けてうどんを運び込む。
「お盆みたいなのも買ったほうがいいな……うち、そういうおしゃれな奴がないから……」
げんなりしながら台所に戻ったら、居間のほうからピロンとLIMEの受信音が。
「ママ~、パパからLIME。『なんとかください』だって」
わたしのスマホから動画を見ていたであろう娘が引き戸の向こうから報告してくる。
換気の時間はもう10分以上経ったから大丈夫かな。「扉開けていいよ~」と声をかけつつ、娘からスマホを受け取る。
「ええと、なにをくださいだって? ……『箸』」
なるほど、小学四年生にはまだ読めない漢字だったね。
そして箸をすっかり忘れていたよ、ごめん夫おおおお!
「箸も使い捨てじゃなきゃ駄目か! 割り箸! 割り箸どこ行ったあああ!」
いつもコンビニでもらっちゃうお箸類、台所の引き出しにぽいっと放り込んでいるけど、プラスチックのフォークだけ山のように溜まっていた。割り箸はフォークを掻き分け、掻き分けした奥にひとつだけ発見。
「食器と一緒に割り箸も買わなきゃ……」
使い捨ては食器だけにあらず。はぁ、もう、面倒くさぁぁい……!
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