第9話 先輩方の助言ありがたし。
検査薬の諸々の道具はそのまま寝室のゴミ箱に捨てちゃって、わたしは電気のスイッチやドアノブを消毒しながら寝室を離脱。
ビニール手袋を取って、あらかじめ広げて置いておいたキッチンパックに捨て、マスクも……外して捨てようとしてハッと気づく。
「やばい、マスク一枚しかしてなかった」
夫氏も綿棒をぐりぐりやるためにマスクを外した状態だった。
やばいやばいやばい……こっちがマスク一枚で相手がノーマスクの場合、1m以内の距離にいたってことは感染のリスクがそうとう高い状態だったのでは……?
「ママ~お昼ご飯はぁ?」
「うわあああ、○子ちゃん、ちょっと近づかないで。ママちょっとこのマスクとりあえず捨てるから近づかないでぇ……!」
過剰反応かもしれないけれど、ウイルスどっぷりついていそうなマスクをしたまま娘と接触したくない。娘は察した様子でピタッと動きを止めた。
「と、とりあえずマスクの表面じゃなくて紐を持って外して、捨てて、と……」
コロナがはやりだした初期の頃によく言われたな、マスクの表面をさわるな、捨てるときは紐を持って外せって。三年も経って実行する羽目になるとは。
「ママ~もう大丈夫?」
「うん、手を洗ったらそっちに行くからちょっと待っててね」
なにかにつけて手洗いだな。ビニール手袋をつけていたとは言え、自分の近くに夫がいたことで安心できず、肘のほうまで二回も石けんつけて洗った。
また出かける予定はないけど、外に出るなら日焼け止めを塗り直さないと……。
「お昼は家にあるもん食べる感じかなぁ。焼きそばと塩ラーメンと冷凍うどんから選んでくれ。というかまだ11時じゃん。お昼は12時になってからね」
「はーい」
「おれ、うどんがいい~」
「あんたはうどんが好きだね○市。はいはい、12時になったらね。それまでママも休憩~」
ちょっと座らんと身がもたん。そしてツイ廃だけにTwitterを開かないと生きている心地がしない。
「ええと、夫コロナ陽性でした、消毒めっちゃ面倒くさいです、とツイートして、っと……。陽性になっているフォロワー様も多いからなぁ……我が家もとうとう仲間入りって感じだよ」
できれば仲間入りせずに乗り切りたかったが……と思っていたら、まぁ~リプが飛んでくる飛んでくる。
家族がなりました、自分がなりました、という体験談から、家族に移された、という恨み節の体験談まで、まぁ~バリエーション豊かなリプライの数々!
「皆さん、めっちゃ苦労されているじゃない……。特にアレだ、父親or夫が感染して、隔離をいやがり家中をうろついた挙げ句、ほかの家族が感染した例がすっごいいっぱいある……」
中にはそれで後遺症が残っちゃって未だ医者通いというフォロワー様もいて、もうとにかく「うわぁ……」としか言えない。
鬼の形相で必死に消毒しても移ってしまったというひともいて、阿鼻叫喚のリプライにはひたすら戦慄するしかないという。
一方で「消毒が本当に面倒ですよね」という激しめの同意、「佐倉さんが移りませんように!」というお祈り、有益なアドバイスもたくさん飛んできた。
『とにかく換気です! 朝起きたら窓を全開にしてください』
『患者本人にも除菌シート持たせて、さわったところを拭いてもらうといいですよ』
『お風呂とかは患者を最後にして、換気扇を強で回してください!』
などなど。こういうコメントをもらうたびに「どれだけの修羅場を乗り越えてきたんだフォロワー……」と、感心するような気圧されるような気持ちになるよね。
「でも、ためになるアドバイスがいっぱいでありがたい。とにかく換気だな。今も窓は開けているけど……普段は開けない小窓のほうも開けるようにするか」
普段まるでさわらないので鍵部分に埃が被っていたけれども。とりあえずあちこち開け放つ。でも夏が近づいてきて暑いだけに、エアコンもしっかりつけないと。
「この部屋、ただでさえ西側の部屋だから、寝室はとにかく外壁と接している居間とダイニングは西日をもろに受けて、めっちゃ暑いんだよなぁ……。今週はあんまり暑い日がないことを祈るばかりだよ」
エアコンを18度設定にしても、真夏のダイニングは30度を切ることがないんだから。居間はまだ6月の終わり。暑さより湿気がやばいという感じだけども。
「うーん、今週の天気も雨だったり晴れだったり、気温もわりと上がったり下がったりなんだよなぁ。電気代は痛いが、しっかりエアコン使って室温管理して、ついでに換気扇も全部オンにし続けて空気の循環を図ろう」
生き残るためにはできる限りのことをしなければ……。
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