第8話 妖精さんです。
「ええと、ほかにも昨日買ってなかった奴を買っておくか。夫が使う用の除菌シート、携帯サイズの消毒液、あとキッチンパック……うーん、Lサイズ買っておくか」
サイズで悩んだときは、とりあえず大きいほう。大は小を兼ねると言うし。
そして帰宅。そぅっと寝室をのぞいてみると、夫はすっかり熟睡していた。それがいい、とにかく寝ないと治るもんも治らんし。
「ママお帰り~」
「ただいま。あ、ママ手を洗うからちょっとそばに寄っちゃ駄目よ」
消毒も必要だけどその前に手洗い、とすぐに洗面所に行って石けんで手を洗う。
あー、手指消毒用のボトルは洗面所にはあるけど台所にはないのを思い出した。そっち用のも買っておけばよかったー……。
「さて、洗濯物を干さないとだわ。昨日消毒したリュックたちは乾いているかな?」
ベランダにて確認したら中も外もしっかり乾いていた。ジンベイザメも色落ちすることなくすっかりきれい。
「○子~、これパパからのお土産だよ」
「可愛い! ピンクのサメちゃん!」
「うちにすでにあるイルカのぬいぐるみと友達になれそうな奴をパパが買ってくれたんだって」
「可愛い~!」
とりあえず抱っこしようと腕を広げる息子だが、パパが買ってきたものというのを思い出してかハッと動きが止まる。
「……さわって大丈夫? コロナ移らない?」
「たぶん……。袋に二重になって入っていたし、ママが昨日アルコールめっちゃシュッシュッやりまくったから」
「うー、怖いけど……消毒したなら大丈夫か……」
とりあえずぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる娘。ぼそっと「酒臭くね?」とか言っていたが、そこまで面倒見きれんよ。
とにかく洗濯物を干して、と。ついでに扉のノブをもう一度入念に消毒。ダスターがこれだけでびしょ濡れになり、あっという間に洗濯機行きよ。
手洗いもそのたびにやっているからフェイスタオルもあっという間に濡れてしまう……ちょっと待って、まさかタオルが足りなくなる危機だったりして?
「常時10枚は用意しているフェイスタオルがなくなりそうだと……? いつもは数多いなぁ、少し減らそうかなぁと思っているというのに」
ついついため息が出てしまう。
買ったものをしまったりなんだりするうちに一時間経ったので、検査薬を手に寝室を訪問。声をかけると夫、一応起きた。
「大丈夫? 検査薬、買ってこられたからやってみたいんだけど、できそう?」
「んー……」
生返事をしながらも起き上がろうとする夫。顔をしかめつつゲホゲホと咳き込み。
「ありゃ、咳も出てきたか?」
「ぃんや……喉が痛くてね」
「喉にくるって言うからねぇ、最近のコロナは。ええと、ちょっと待っててね。まずは箱からキットを出して、と」
説明書を開いて必要なものが全部入っているか確認。箱に丸く空いている点線に沿って穴を開けて、そこに薬が入っている容器を立てる。
「ええと、とりあえずこの綿棒を受け取ってくれ。ベロの下に唾液をたっぷり溜めた状態で、そこに綿棒をぐりぐりするような感じでやって」
「うぅー……」
喉が痛すぎるのか、返事がだいたい「うー」になっている夫。かわいそうやね。
「そうそう、ベロの下でぐりぐりやってもらって……。はい、OK。こっちにちょうだい。で、これを液のところに落として、綿棒の先で底をぐりぐりと擦りつけるように十回、回して……っと」
説明書を横目に、液が入った容器の底に綿棒ぐりぐりぐりぐり……。最後に綿棒を引き抜くときには、薬剤師の女神に言われたように、容器を外から強く握って、ぎゅっとしぼりながらゆっくり引き抜く。
「で、この液に蓋をして、と。先端の穴から、プレートの穴の空いた部分に液を垂らして……と。はい、検査結果は15分後に出ます」
唾液を垂らしたところから脱脂綿的な奴がじわじわ濡れていって、最後に線が出る感じ。
無事に検査できましたよ、という印のラインがくっきり出て、少し遅れて陽性のラインがじんわり出てきた。はい、アウト~。
「はい、陽性確定です。とにかく薬飲んでアクエーリ飲んで寝てください。以上」
「うい~……」
はぁ~あ、陽性か。まぁわかっちゃいたけど、本当に面倒なことになったわ。
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