第7話 佐倉は、検査キットを、手に入れた。
「ママ、また買い物に行ってくるね。あ、トイレ行きたいひとはいる?」
居間でくつろぐ子供たちに声をかけると「あ、おれ行きたい」と息子が申告。
「じゃあ行ってきちゃって。もしママが出かけているあいだにパパがトイレに入ったようなら、ママが帰ってくるまで君たちはトイレに行くのを我慢してください。できる?」
「わかったー」
わかっているんだかわかっていないんだか判断しがたい声音で返事する子供たち。わかっていると信じて母はウメキヨに旅立つぜ。
「ええと、薬コーナーはこっち……おっ」
ちょうど薬棚を整理している女性店員を見つける。看護師さんとかがよく着るような白い服を着ているあの方は、まさに!
「あの、薬剤師の方ですか?」
さっそく声をかけると「はい、そうです」とすっくと立ち上がってくださった。
め、女神~! あなたに会いたかったのです~!
「なにかお薬をお探しですか?」
「あの、コロナの検査薬をいただきたいのですが」
「はい、こちらになりますね。唾液で検査するのと鼻の粘膜で検査するのと、どちらがいいですか?」
「あー、鼻と唾液と、どっちのほうが正確性が高いんですかね?」
「基本的にどちらもそう変わらないですね。ただお鼻だと、こう、綿棒を奥に2cmくらい入れていただいて、ぐりぐりってやるので、どうしても怖がって奥へというのが難しい方が多いですね」
だよね~。わたしがやるとしても「鼻はいやだあああ」って1cmもぶっ差せない自信があるもん。インフルエンザの検査とかマジできらい。
夫はぁ……その点は粛々と受け入れそうだけど、どのみち熱が高くてうんうんうなっている状態で、鼻の穴に綿棒をぶすっとやられたくはないだろう。
「じゃ唾液で検査するほうで」
「かしこまりました。お一つでよろしいですか?」
「えっと、二ついただいていいでしょうか?」
一つはすぐに使うとして、もう一つはよくなってきたときに、ちゃんと陰性になっているか確かめる用に使いたい。密林で頼んだぶんもあるが、それは家族用にしちゃえばいいし。
「かしこまりました。ちなみにこちらの購入ははじめてで……?」
「はい」
「では、ご購入前に使い方の説明をさせていただきますね」
ということで薬剤師専用とおぼしきレジがあるところに入った薬剤師さん、ラミネートされたA4のレジュメを手に懇切丁寧に使い方を教えてくれた。
「まずここに書かれているキットが全部入っているか必ず確認してください。そしてこちらの液のふたを開けていただいて、この箱にある……この部分ですね、穴を開けていただいて、液をこう、立てていただきまして。そして検査に使う唾液はベロの下のほうですね、そこにたっぷり唾液を貯めていただきます」
食事の直後、また歯を磨いたあとだと正確な検査結果が出ないため、もし食事とか歯磨きとかしたあとであれば30分おいてからやってください、ということも説明される。
「で、綿棒を下顎のところにこすりつけるような形で、たっぷり40秒くらいしっかり唾液を取ってください。そしたら綿棒を、さっき箱に立てた検査液のところに入れていただいて、底にこすりつけるように10回くらいしっかり回してください。綿棒を抜くときも、この容器の上のほうをつまんでいただいて、こう、綿棒についた唾液をぎゅっと搾り取る感じでお願いします」
「ぎゅっとですね」
「ぎゅっとです」
わたしの真面目な返事に真面目な顔でうなずいてくれる薬剤師さん。女神。
「そしたら唾液が入った検査液の容器に蓋をしていただき、軽く振ったり指で弾いたりしてください。それが終わったら蓋の部分に穴が空いていますから、そこから検査プレートの、この穴の部分ですね。ここに液を垂らしてください」
うわぁ、このプレート、妊娠検査薬と同じような形をしてらぁ。妊娠の検査は尿かけるだけで簡単なのに、コロナは手順がわりと複雑やんね……。
とにかく佐倉は検査薬を手に入れた。二つでお会計は3500円くらいだぜ。ぐぬぅ、痛い出費。だがこれでコロナかどうかわかるのなら御の字よ。と思い込むことにしよう(そうじゃないと、やっぱり出費に落ち込んじゃうしね……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます