第6話 隔離開始。

 ――2023年6月25日(日)。


「ママおはよう~」

「んあっ、おはよう。もう7時半か」


 子供たちにゆさゆさと起こされハッと起きるわたし。

 いつもの日曜日なら、なんなら9時くらいまで寝ているのだが(子供たちは勝手に起きて動画見たりゲームしたりして過ごしている)、今日はスマホの目覚ましアラームが鳴っていたから、ママを起こしたほうがいいと思ったらしい。


「ふわぁ、隔離部屋を作らないとだな……。まずは朝ご飯だね」


 ということで子供たちにツナトーストを作る。二人が食べているあいだに顔を洗って家中の窓を明けて、寝室の三枚ある布団をひと組残して、残り二組と、上掛けやら毛布を三人ぶん居間に移動。


 我が家は2LDK(居間六畳、寝室六畳、キッチンダイニング八畳)なので、夫は寝室に隔離することに。

 わたしと子供たちは当分は居間で寝起きすることになる。食卓にしているこたつテーブルを立てて脇に押しやれば、布団を二枚敷くスペースは確保できるのだ。


「さて、布団を運び終えたところで隔離部屋の用意だ」


 まだ夫本人は外にいるのに、すでにマスクをつけて作業をはじめるあたり、我ながら過敏になりすぎだとも思うけれども。


「ええと、普段もの入れにしているこの籠を逆さまにすれば、簡易テーブルにできるかな。そこにひとりがけの椅子を持ち込んで、と。隣に布団を敷いて、モバイルバッテリーやらなにやらはコンセントのそばに集めておこう。わたしの充電コンセントは回収して、わたしの耳栓やらマスクやらも回収っと……」


 普段はその辺に置いてあるスタンドライトとかも回収し、すべてクローゼットに押し込む。寝室のクローゼットには家族の着替えが入っているので、わたしと子供たちの服やら下着やらを三日分確保して、ダイニングに運び込んでおく。

 夫のぶんの着替えはあらかじめ出しておいて床に直置き。とにかくクローゼットを開けずに済むようにしておかないと。


 わたしの仕事用の机の脇に置いてあるゴミ箱を、夫専用として寝室に運び入れる。

 昨日「さわりたくないな」と思っていた、駄菓子の詰め合わせっぽいお菓子の袋も運び込む。今は熱で食べる気はないだろうけど、回復できたら空腹をまぎらわすのに使ってもらって、と。


「あとはエアコンのリモコンを置いておいて、と。窓はずっと開けっぱなしでいいやね。こんな感じかなぁ」


 ということで用意ができた頃合いを見計らい、夫が帰ってきた。

 即座にビニール手袋を嵌め、夫にはなにもさわらないように言って寝室まで通す。

 どうやら夫氏、お腹がすいていたのでさっさと治そうという気合いも込めて、朝の7時頃にネギ山盛りの牛丼を食べてきたらしい。熱があってもそれだけできるって、タフすぎて逆に怖いんだが。


「熱は何度だい?」

「39度……」

「やっぱコロナっぽいね。はい、とりあえずここで過ごしてください。リュックごと入っちゃって」

「うー……」

「喉痛い? 濡れマスク使った?」

「ううん」


 ということで夫のリュックから取り出した濡れマスクをセットして、つけさせる。アイスノンをタオルでぐるぐる巻いて用意し、夫の頭と枕のあいだに押し込んだ。


「アクエーリの2Lの奴、ここに置いておくからこまめに飲みな。トイレ行きたいときはLIMEして。自分でドアノブとかなるべくさわらないように」

「うぃ……。あぁ、布団だぁ……」


 どうやら車で一泊したらしい夫、布団を被ったら即寝たわ。かわいそうに。


(しかし熱が39度から下がらないかぁ……。今日が月曜日ならかかりつけ医に電話するんだけどなぁ)


 あいにく本日は日曜日。昨日ゼルダをやる合間に県や市のHPを検索し、5類になってもコロナ症状を見てくれる病院に関してはリストアップを終えてある。

 だが日曜日に見てくれるのは市内の赤十字病院だけ。距離は遠くないが、とにかく市内から似たような発熱患者が押し寄せているだろうから、あんまり連れて行きたくない。同行するわたしが感染しそうで、めっちゃ怖い。


「ひとまずもう一回ウメキヨに行ってみるか。運がよければ薬剤師さんがいるかも」


 日曜日だけにどうかなぁという気持ちもあるけど、ウメキヨに限らず近隣のドラッグストアや薬局を回れば、一軒くらい薬剤師さんがいて、検査薬を売っている店があるだろう。というかそう信じたい。そうであってくれマジで。

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