第5話 思考だけで疲れる。
と言いつつなかなか眠れない。明日も検査薬が手に入らなかったらどうしようという気持ちになって、スマホから密林アプリを起動させる。
「ええと、検査薬は『研究用』って奴が駄目なんだよね。くそ、価格順だと研究用のばっかりが出てくる……そうじゃなくて、ちゃんと厚生労働省とかが承認しているようなしっかりしたやつをくれぇえ……」
ということで、それなりのお値段がして、過去に購入件数が多い奴をタップ。
いつもなら速効で購入できるような表示が出るのに、やはり数に限りがあったり、いろいろ制約があるのかな。いちいち注意事項とかを読んで了承するボタンを押さないと先に進めないという感じになっていた。
「そして先に進んでいざ購入という段階になって、よぉおやく、いつ届くかがわかるけれど、プレミアム商品であっても届くのは月曜日かぁ……」
明日の日曜日に届けてくれそうなしっかりした検査薬はなさげ。そりゃあそうだよね。今が土曜の昼間とかならワンチャン夕方くらいなら……ってなりそうだけど、もう土曜日の夜だからね。そりゃあ明日は無理だわ。
「うーん、月曜も買い物とかで忙しいのかな? 確実に受け取れる時間帯となるとやっぱり夕方の時間指定になっちゃうんだよなぁ……」
検査薬ひとつ買うのも一苦労過ぎる。というか月曜日であれば普通にかかりつけに行って検査してもらったほうが早い気がする。うーん、購入するべきではないか?
「いや、でも治ったときに陰性かも知りたいから、やっぱり買うだけ買っておこう。あ、それと、なんだっけ、指に嵌めて酸素はかる奴。あれも買いたい」
肝心の名称が思い出せなくて、もうそのまんま『指に嵌めて酸素はかる奴』とググったら、ちゃんと『パルスオキシメーター』って商品名が出てきたわ。
すげぇな天下のGoogle様。こんなアホな検索でもバチッとそれを出してくれるんだから。
ということで検査薬と一緒にパルスオキシメーターも一つ購入。今のところ夫、息苦しさとか咳はないみたいだけど、これから出てくるかもしれないし。備えあれば憂いなしよ。
「あ、というか月曜日、わたしディーラーに行くんじゃなかったっけ?」
愛車ちゃんのハイビームだからライトだかのなんかが壊れているだか汚れているだかで、部品交換が必要と言われたのだ。
部品が入荷したからきてね~、オッケーじゃあ月曜に行くわ~、うぃ~、とディーラーに予約したのを忘れていた。
「これ電話してキャンセルしないと駄目だよね。明日日曜だけどやって……やってるわ、ディーラーって平日が休みで休日は稼ぎどきだわ」
そしてディーラーに行ったら帰りに実家に寄ろうと思っていたんだよな。こうなったからにはそれも無理だ。母にLIME入れておこう。
「ああ、もういろいろと予定が狂いまくり……」
生理も終わったし、市から補助券もきていたから婦人科に予約して癌検診も受けようと思っていたのに。
娘の眼科も今週に行こうと思っていたんだ。視力検診で引っかかって、とりあえず一ヶ月ほど目薬つけて、視力が回復するか見てみようって話になって。
ちょうど今週がその一ヶ月だから、早く帰る日に行ければと思っていたけれども……。
「おまけに○子、学校の歯科検診の紙を今頃になって持ち帰ってきて、しっかり虫歯にチェック入っていたしな。でもいつもの歯医者、なんか外装工事中っぽくて患者さんの車が停まってないんだよなぁ……あとでそれも確認しないと……」
なんかやること多くない? キャンセルするにしても予約するにしても、この手の段取りだけでもう母の頭の中っていっぱいいっぱいにならない? なるよね?
全国の母親が似たような脳内で今日も生きていると信じているよ。
普段の生活ですらこうやっていっぱいいっぱいなのに、コロナなんか入ってきた日にゃ面倒ごとしか浮かばねぇ。
あー、もうやだ。夫が帰ってくる前の今からいやだ。面倒くせぇ。
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