地底で宝探し

「あー、こいつキメッ」

「ガチでキショいわ」


 活発そうな二人組に囲まれて、キモのオタそうな少年が殴ったり蹴られたりしている。彼らは近隣の高校のクラス・メイトであり、通学路から外れた森の中で遊んでいるのだ。


「痛いって!やめてよ!」

「うるせえよ喋んなボケ」


 反抗したキモオタが惨めにも頬を殴られ、地べたに這いつくばる。浅黒肌の少年が後方から眺めてニヤけていたが、視界に入ったそれに興味が湧いたようだった。


「おい、井戸あるじゃん」


 小柄な少年は横になったキモオタを蹴飛ばし、井戸の方へ移動した。蓋を開けてから数秒して、何か閃いたような顔をすると、浅黒側の少年にこんな提案をした。


「こいつ殺して井戸に入れようぜ」


 これを聞いて、浅黒肌の少年は大笑いした。とんでもなく悪辣な発想だったが、無様に井戸へ打ち捨てられるキモオタを想像すると、たいへん愉快な気持ちになった。


「んじゃあ殺るか」

「待って!自分から入るから殺さないで!」

「くせえから口開くなや豚……いや、こいつマジで殺すわ。殺すから」


 浅黒肌の少年は短剣を取り出し、キモオタを刺そうとした。しかし肥満体型から予想できぬ軽やかなステップで回避し、彼は井戸の底へ退避したのだ。


「逃げやがった!」

「逃げんなや死ねやデブ!」


 まず小柄な少年が井戸に入ると、続いて浅黒肌の少年が入った。底に至るまでかなりの高さがあったので、小柄な少年は着地したときに腰を痛めた。


「あっ」


 小柄な少年が恐怖したのは、続いた浅黒肌の少年が短剣を下へ向けていたからである。そして予期したとおり、少年はクッションになっただけでなく、その胸に刃が突き刺さって死亡したのだ。


「おい、大丈夫か、おい!」

 

 浅黒肌の少年が懸命に呼びかけたものの、返事はない。少年は泣いた。キモオタが逃げたせいで、親友を一人、失ってしまったからだ。


「あの野郎……ぶっ殺す!」


 少年は周囲を見渡し、自分の背後に空洞を見つける。立って歩けるほどの穴だったが、暗闇に覆われているのが恐ろしかった。しかしサッカー部のエースなだけに、勇気を奮い立たせて進軍していったのは、賞賛されるべきことであろう。


 しばらく歩んでみると、何やら広い空間に出た。円錐型をした空間には土で固められた四角い建造物が詰められており、つまるところ人工の遺跡がそこら中に蔓延していた。


「地下都市ってやつか……うん?」


 少年が見つけたのは、建物の一つに入ろうとするキモオタの姿である。彼は慎重そうな動作で中へ入っていった。こちらに気付いていないと見た少年は、短剣を構え、その建物に向かった。扉の無い玄関口に到着し、中の様子を窺おうとしたが、暗くて良く見えない。


「豚ァ!出てこいやァ!」


 こんな大声を出しながら突入したのは若気の至りとはいえ、とんでもない不覚としか言いようがない。室内の影に潜んでいるキモオタに背後を取られ、組み伏せられたのは当然の成り行きだろう。


「テメェ!」

「おやっ?思ったより力が強いね。こんな可愛い顔なのに、なんともヤンチャなことだなあ」


 キモオタは迅速なムーブで古びたロープを取り出し、少年の手を縛る。小さな言語野からありとあらゆる暴言が発せられるが、キモオタは微動だにしない。それどころか、鼻息を荒ぶらせて自らの大蛇を膨らませる始末であった。


「死ね、死ねや!」

「一緒に逝こうよ」


 ズボンを脱ごうとしたキモオタは、その瞬間、尻に異物感を感じた。縛られていた少年には異物の正体がわかる。それは、動物の骨から作られた一本の槍であった。


「おおうっ」


 キモオタは自らの下手人を知らずに絶命した。一方、少年は殺人者(ある意味では彼もそれなのだが)を見て、甚だしく恐怖した。


 大便めいた肌の色に、毛虫のように生える体毛。猿よりも一回り大きいその生物は、顔付きこそ人に酷似しているが、身体の節々からはみ出た骨は、死者が動いているかのような印象を与えた。


「や…やめろ…」


 少年は懇願した。生物は槍と突き刺さった人体を隅へ放り、全身をくねらせながら近づいた。怯えて慟哭する少年にがっぷりと組み付く。地の底へ降った、麗しの若人に、子宝を求めて。

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