畜生降らし
雨貴村では年に一度、障害者や性的マイノリティを気球に貼り付けて空に飛ばせる祭りがある。村の青年たちが電動ガンで気球を撃ち落とすことで、遠目からだと局地的な雨が降ったように見えるのだ。この奇祭を見るために、国外からやって来る観光客もいるという。
とはいえ、この祭りが話題になったのは数十年も前のことで、今となってはかつてほどの盛り上がりが見られなくなった。村の宿が満室になる程度には賑わっているものの、昔の繁栄を知る古老たちにとっては、とても不安な気持ちだった。
「彩りを添えようか」
「どうやって」
「人間以外を落としてみよう」
古老たちは熟慮した。物を降らせても面白みがないし、家畜を降らすなんてとんでもない。猟師は害獣を提案してみたが、ジビエは村の名産の一つだった。
「それなら、猫はどうだろう。猫なんぞ無生産を象徴する害獣だし、村に損害はあるまいて」
一同は天啓を得た思いがした。確かに、猫ならいくら死んでも問題はないし、そこら中にたくさんうろついている。
「では、次の開催日までに集めておくか。エサ代は……ま、共食いさせれば良かろう」
翌年の七月某日、村のあらゆる場所に観光客が待機し、雨の如く降り注ぐ人間を撮影しようと躍起になっていた。村の青年たちは生産性が無いとされる人種と、大量に集めていた猫を気球に括り付け、空に放った。
「おいおい」
「あれやばくねーか」
観光客が不審な反応をしたのは、異質なものを見つけたからである。なんと、猫たちが気球に張り付けられているではないか!
「やめなさいよ!」
「可哀想でしょ!」
制止も虚しく、青年団は一斉射撃をした。気球が次々と割れ、社会的少数者と猫が青空を染める。観光客たちは阿鼻叫喚の状態となり、怒りと悲しみの混合した叫びが、村を覆い尽くした。
翌日、村の古老たちは逮捕された。あまりに残虐な祭りが世界中から非難を受け、関係者たちが厳しく糾弾されたためだ。こうした経緯があって、「猫の権利を守る会」が発足されたのである。
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