アップ・デート済みの老探偵

「私は男性から産まれた赤子が見たいことだよ。拉致でも何でもして連れてくることだよ」

「陛下のお望みとあらば」


 やんごとなきお方の住まいから這い出たのは老練の名探偵、蓑城金次である。彼に下された勅命は月から下ってきた淫売の下した難題よりも下らないものだったが、どんな任務も成し遂げる所存だ。


「おかえり、爺ちゃん」

「ただいま。ちょっと、聞きたいことがある」


 御所からの帰宅と孫の部活帰りがほぼ同じタイミングだったようで、蓑城は間の良いことに喜んだ。加えて、女子高生を孫に持っていることも僥倖であった。


「誘子の学校に、こんな感じの学生はいるかね」

「うん…?ああ、いるよ。それがどうしたの?」

「いや、少しその子と話がしたくて」

「へえ」


 孫は気が進まないようだったが、なんとか会談の機会を得ることができた。しかし蓑城金次の恐ろしいところは、会談をするつもりなどはなからないことである。




 三日後の夕方、蓑城は地元の喫茶店付近の路地裏に潜伏していた。人気の少ないため、仕事に適した場所だった。しばらく待っていると、夕日を背に一人の学生がやってきた。


「やあ!君が女屋くんだね?」


 呼びかけられた学生は全身をジャージで武装しており、ややぶっきらぼうな印象を受けるが、端正な顔立ちだった。突然現れた老人に驚いて、豊満な胸がプルンと揺れたのを、蓑城は見逃さなかった。


「はい。話があるって、誘子から聞いて……」

「そうそう。ま、取り敢えずあそこ入ろっか」


 蓑城は笑顔のまま右手で喫茶店を指差し、左手で女屋の手を掴んだ。そのまま店内へ引っ張っていく調子だったが、突如右手を口に回し、そのまま路地裏へ連れ込んでしまった。


「これ、暴れるな」


 必死にもがく女屋のひかがみを蹴飛ばし、地に這わせる。蓑城はすかさず追撃し、その口を布で封印し、手足を縛った。


「大丈夫、大丈夫」


 蓑城は笑顔を崩さない。これは己の流儀に基づいたことで、どんなときでも、彼はその姿勢を貫いている。


「少しだけ女の子に戻ってもらうからね。しばらく家に戻れないけど、心配しなくて良いからね」


 女屋のジャージを剥ぎ、下着を乱雑に脱がせる。誰がどう見ても、子作りに適した極上の女体だった。蓑城はたまらず、己の服を脱いだ。




「この国も随分と物騒になりましたなあ」


 棺を持って参内した蓑城が、眼前の人間に不遜な視線を送る。その笑顔は老いを感じさせない。


「女子高生が誘拐されて、一年経っても見つからないなんて。私に頼んだのであれば、まあ解決は易かったでしょうに」

「本題に入ることだよ」


 老探偵が歯を剥き出しにした。


「御下知の方、完遂しました。こちらがその赤ん坊でございます」


 懐から安らかに眠る赤子が取り出され、その方は大いに目を見開かれた。


「ふうむ。これだけは分からんことだよ。証拠が欲しいことだよ」

「これは私の子どもでございますよ」

「では、其方が出産したと?」

「ご冗談を。母体はこちらの男性で御座います」


 蓑城は棺を開けた。そこにあったのは、女屋の肉体だった。


「女ではないか」

「男性にございます」

「……なるほど!当世、流行りの」

「喘ぐ声こそ、女子のそれと似通っておりましたが」


 こうして蓑城は、先例のない”お抱え探偵”という地位を得た。

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