【エピローグ】

・【エピローグ】


 次の日も学校を休んで、私は正太郎の家へ来ていた。

 正太郎のお父さんは仕事でいないけども、午後からは私のお姉ちゃんと私のお母さんも来るという話になっている。

 荷造りした段ボールをまた開ける作業を手伝うために。

 そう、正太郎からは夜連絡があって、引っ越しが無くなったという話だ。

 せっかく住所を伝えたのに、住所を変えてしまったら、意味無いから、と。

 つまり正太郎の引っ越しは無くなった。

 私の勝ちである。

 と、強い気持ちでいきたいと思っているのに、正太郎はまだどこかぼんやりしていて。

 だから私は正太郎と目が合った時に言った。

「正太郎、算数だって、何だって、納得のいく答えが必ず出るわけじゃないんだよね。答えは作れるけども、同時に事実は事実として必ずあるからね」

「そうだな」

「事実は受け止めるしかないからね」

「そうだな」

「だから私は事実だけ言うね」

「うん」

「正太郎がずっとここに居てくれるようになってくれて、すごく嬉しい。私は本当に嬉しい。だって正太郎とずっと一緒に居られるんだもん」

 正太郎はフッと笑ってから、

「俺もだよ、鈴香と同じ小学校に通うことができて嬉しいよ」

「それでいいじゃん、とはならないけどもさ。嘘、私はそれでいいじゃんと思っちゃってる。正太郎と一緒に居られるんだったら私はそれでいい。それがいい。これからもずっと一緒だからね、離さないで」

「俺ももう離さないよ」

 その”もう”に含みがあることは分かったけども、それごと抱きしめた。

 正太郎も抱き締め返してくれて、何だか時間は永遠と思った。

 荷物を開けることはそこそこにして、私と正太郎は近くのパン屋さんに行って、甘い甘いパンを買った。

 周りの大人からは『創立記念日?』みたいな目で見られた。

 でもそんなことはどうでもいい、だって私は正太郎と一緒にいるんだから。

 午後、お姉ちゃんとお母さんが来て、お母さんはお姉ちゃんがお金ももらえないのに頑張っている姿に驚いていた。

 ちなみにあのチョコレートは全部お姉ちゃんにあげて、正太郎がこう言った。

「井祐さんと一緒に食べて下さい」

 それにお姉ちゃんは正太郎の頭を撫でながら、

「良い男過ぎじゃん」

 と笑ったところで、私はお姉ちゃんの手を払うと、

「嫉妬芸かよ」

 と言った。

 次の日、小学校へ行くと、やけに田中先生のテンションが高かった。

 正太郎にウザ絡みを連発していた。

 どうやら、というか当たり前だけども田中先生は正太郎の引っ越しの件を知っていて、それが無しになった情報も入って、めちゃくちゃ喜んでいるようだった。

 キャムラはいつも通り、落ちていたティッシュに足を滑らせて転ぶし、美代はやけにイッチンと親し気だし、華絵はビックリするほどモグモグしているし、隼輔くんは最近プロサッカーチームの下部組織チームのセレクションに来ないかと誘われたらしく、体育のドリブルが体育のドリブルじゃない。

 横を見るとそこには正太郎が笑っていて、日常って最高だな、と思った。

 この日常は私が守る、さんすう探偵が平和を守る、と誓った。

 何故ならこの日常が、正太郎と一緒にいる日常が、大好きだから。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さんすう探偵vsことば探偵 伊藤テル @akiuri_ugo5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ