【くーちゃんの紹介】
・
・【くーちゃんの紹介】
・
大学近くの駐車場で車を止めて、私と正太郎はお姉ちゃんに連れられて、大学に入っていった。
門の係員の人には「小学生の社会見学」とお姉ちゃんが説明したら、すぐに入れてくれた。
事前にスマホで待ち合わせしてくれていたらしく、そのくーちゃんという人とはすぐに出会えた。
「よっ、佳子。朝から会いたいだなんて、ホント佳子は私のこと好きだなぁ」
「百合かよ。そういうのじゃないんだよ。今日はこの二人がくーちゃんに用があるって」
すると、くーちゃんという女性は正太郎の頭をポンポンしながら、
「こんな可愛いキッズがどうした、どうしたぁ?」
と嬉しそうに笑った。
お姉ちゃんは鼻で笑ってから、
「ショタかよ。属性の役満かよ。いやそうじゃなくて、六次の隔たりって知ってるか?」
「知ってるよー、数珠繋ぎのヤツでしょ? あっ、この子たち、今それやってるの? すごい! 面白い!」
正太郎は頷いてから、写真を取り出し、
「それでこの女性を探しているんですけども」
と言うと、くーちゃんという女性が、
「えぇー、結構年上好きだねぇ、お姉ちゃんと遊ぼうよぉ!」
それに対して、お姉ちゃんが鼻の頭を掻きながら、
「マジでそういうヤツじゃないから。ゴメン、コイツには事前に説明しとくべきだった」
と言ったところで、くーちゃんという女性が、
「ちょっとぉ! すぐコイツって言うぅ!」
「いやマジでこのタイミングはコイツしかないんだよ」
「というか佳子! それなら井祐くんを紹介すればいいじゃん! 井祐くんのほうが絶対人脈広いじゃん! 一旦私を挟むなよぉ! 参ったなぁ! そんなに私に会いたかったのかよ!」
そう言ってお姉ちゃんに抱きついたくーちゃんという女性。
井祐くん? あっ、お姉ちゃんが誰を紹介するか悩んでいた時の、悩み音(なやみおん)の『いぃ~』って井祐くんという人の”い”ということ?
お姉ちゃんはくーちゃんの抱きつきからバッと離れてから、
「井祐の名前は出すんじゃねぇよ!」
と声を荒らげた。
すると、くーちゃんは、
「だよねぇ、井祐くんよりも私だよねぇ、だからこっちの世界に来なよぉ、佳子ぉ」
「そっちの世界にもいかないが、井祐の名前を出すな!」
と言ったところで私は意を決して喋り出した。
「お姉ちゃんにとって井祐くんという人がどういう人か知らないけども、できればその井祐くんという人を紹介してほしいです。私たちは真面目に六次の隔たりをしているんです」
すると正太郎も呼吸を整えてから、
「この写真の人物は、失踪してしまった俺のお母さんなんです。俺はお母さんを探していて、でもその探す時間もタイムリミットがあって。早く見つけ出さないと俺はまた転校することになって」
固まったくーちゃん。
お姉ちゃんはバツが悪そうに後ろ頭を掻きながら、
「だからさ、ふざけている場合ではないんだよ」
くーちゃんはお姉ちゃんの肩をガッと掴んで、こう言った。
「じゃあふざけてるのは佳子のほうじゃん! 絶対井祐くんじゃん! この子、お母さん探してるんだよ! じゃあ最初から佳子から井祐くんを紹介しないとダメじゃん!」
「いや、でも井祐は……」
「もう私が紹介するから! 井祐くんに連絡するから!」
「うわっ、マジかよ、やめろって」
「キッズたち! 佳子のこと止めといて!」
「いやマジ井祐は止めろってぇ!」
とお姉ちゃんが叫んだところで、後ろから男性の声がした。
「佳子、何か俺のこと言ってる?」
お姉ちゃん以外の三人でその声がするほうを見るとそこには、ガテン系の、色黒の男性が立っていた。
くーちゃんはすぐさま手を挙げて、
「井祐くん! ちょうどいいところに来たぁ! 井祐くんの出番だよぉ!」
するとお姉ちゃんがデカい声で叫んだ。
「出番じゃねぇよ! 目の前から去れ! テメェのことなんて大嫌いだよ!」
「そ、そっか……」
と言って、井祐くんと思われる人はその場を去ってしまった。
それに対してくーちゃんが、
「何してんの! 井祐くんが適任でしょ!」
「いや、アイツはダメだ、関わり合いたくない」
「このキッズたち! 人生賭けてるんじゃないのっ? 信じられない! 佳子ぉ!」
私はどうすればいいか分からず、おろおろしていると、正太郎が割って入った。
「鈴香のお姉さん、どういう関係の人なんですか?」
「元彼だよ! 最悪の元彼!」
すると、くーちゃんが、
「そうでもないんじゃないのっ? というか人脈ならそれこそ井祐くんじゃん!」
「嫌だ、アイツの手は借りたくない」
何だか頑なな感じだった。
でもこれを崩さなきゃ、と思った時、私は一つ方法が浮かんだ。
それは、
「お姉ちゃん、じゃあ私と勝負しよう。その勝負で私が勝ったら井祐くんという人を紹介して」
「勝負? 何だよ急に」
「私が負けたらお母さんがなんと言おうと貯金全部あげる。というか徐々に崩して、その度にあげる。怪しまれないように」
それにくーちゃんが、
「いいよぉ! 私が井祐くんを紹介するよぉ! お金は大切だから、ねぇ! ねぇ!」
それを私は手で遮った。
正直私には勝算のある勝負があったから。
私はまずお姉ちゃんを煽った。
「まさか小学生との対決から逃げるなんてことないよね?」
お姉ちゃんは首のあたりを掻きながら、
「あー、煽ってるつもり? というかお金もらえる時点でやってやるよ、バカ」
「それならハンデとして小学生側が提示したルールで闘ってくれる?」
「とりまルール言ってみろよ」
と言ったところで正太郎がカットインしてきた。
「大丈夫か、鈴香……大切なお金を俺のために賭けるなんて……」
「大丈夫、私は勝負で負けたことないから。ゲーム名は『石取りゲーム』、これで勝負しよう」
「ちょっと待て、鈴香。石取りだなんて体格差があるぞ」
「そういう全身を使った勝負じゃないから」
私がそう焦っているような顔をしている正太郎を抑えると、お姉ちゃんが、
「まあまあ、とにかく鈴香にルールを言わせなさいって、正太郎くん」
「じゃあ説明するね。石を交互に毎回1~3個取っていき、最後の1個を取ったほうが負けのゲームで、石の数は17個で行なうんだ」
すると正太郎が慌てて割って入り、
「いやもっと複雑な勝負のほうがいいんじゃないか?」
と言うと、私は制止のポーズをしながら、
「大丈夫、私はこれで勝てるから」
と答えた。
それに対してお姉ちゃんは、
「よしっ、その勝負でいいぞ。ただし、勝負は同じ小学生である正太郎くん、オマエがアタシと対決するんだ」
それにくーちゃんが目を丸くして、
「それ卑怯じゃないぃっ?」
と言うとお姉ちゃんはニヤニヤしながら、
「いや鈴香はきっと必勝法を知っている。だからここは何も知らない正太郎くんと対決したほうがいいだろ」
正太郎は目が泳いでいた。
だから、
「ちょっと、私のお金が賭かってるんだから私との勝負にしてよ」
「いいや! 正太郎くんのお母さんが賭かっているんだから正太郎くんと対決するべきだろっ? それともあれか? こういうところで逃げ出すのか? 正太郎くんは、な!」
正太郎は震えながらも、最後は意を決した目で、
「分かった! 俺は逃げ出さない男だ!」
お姉ちゃんは笑いながら、
「良い男だねぇ!」
と言うと、正太郎は、
「男に二言は無い!」
と叫んだ。
じゃ、じゃあと思い、
「私が石を用意するから……」
と肩を落としながら言うと、お姉ちゃんは、
「そうだな、石集めなんて小学生のすることだから用意は鈴香がしてくれ。どうせここで不正はしようがないだろ。やる時に数えるし」
ということで私は石を17個集めて、正太郎とお姉ちゃんの前に置いた。
さぁ、勝負だとなったところで正太郎がこう言った。
「俺は男だ! レディーファーストだ!」
「男だねぇ、良い男になると思うからさ、ここはお母さんを諦めてもいいんじゃないかな? マザコンは嫌われるからね」
と言いながらお姉ちゃんは石を3個取った。
後攻の正太郎は長考している。
そんな正太郎にお姉ちゃんはニヤニヤしながら、
「まず思いっきり取ったらどう? 男らしくね!」
それに対して正太郎は首を横に振って、石を1個取った。
「じゃあ次は私も1個」
とお姉ちゃんが1個取ると、今度は正太郎が3個取った。
残りは9個。
お姉ちゃんはすぐさま2個取ると、正太郎がまた悩みだした。
お姉ちゃんは余裕しゃくしゃくで、
「いやもう悩んでいてもしょうがないから。これはきっと手品みたいなことで石を隠したりする裏技があったゲームなんだって。鈴香は知ってるかもしれないけども、君は何も知らないんでしょ? ささっ、早く決めたらどう?」
正太郎は黙って2個取った。
残りが5個になったところで、ずっと見ていたくーちゃんが「あっ」と声を漏らした。
するとお姉ちゃんも「あっ」と言ってから、こう言った。
「アタシの負けじゃん。3個取ったら1個取られて、1個取ったら3個で、2個取ったら2個で……うわぁ! 小学生に負けちまったぁ!」
正太郎は力強いガッツポーズをかました。
お姉ちゃんは悔しそうに石を3個取って、すぐさま正太郎が1個取って、石は1個になった。
その1個をお姉ちゃんは取った。
すぐに声を出したのは、くーちゃんだった。
「やったぁ! 勧善懲悪ぅ! 正太郎くん、すごいねぇ! 撃破だねぇ!」
そう言って正太郎の頭をなでなでして、何かそれは違うな、と思ってしまい、つい私は口から言葉が出てしまった。
「いや私が教えた通りだけどね」
「はぁっ?」
デカい声で、そう言いながら私を睨んだお姉ちゃんは矢継ぎ早に喋り出した。
「教えたって何っ? ちょっと! 正太郎くんも! このゲーム! 初見じゃないのっ? というか初見だったでしょ! あの言いっぷりは!」
すると正太郎は毅然とした態度でこう言った。
「いいや、鈴香に何度もやられた」
「知ってたのっ? 何か知らない風だったじゃん!」
「いや知らないフリしたほうがいいかなと思って」
「詐欺じゃん!」
「詐欺じゃない! ことば探偵こと、空高く羽ばたくスーパーロボットだ!」
そう胸を張って叫んだ正太郎に、お姉ちゃんは一瞬沈黙したかと思うと、急に高笑いをしてからこう言った。
「だから男って信用ならないんだよなぁ! クソがっ!」
でも、
「まあ仕掛けたのは私だけどね、お姉ちゃん」
「最近の小学生はマセてんな! 本当に!」
お姉ちゃんの叫び終わりを待っていると、くーちゃんが、
「あっ、もうラインで井祐くんに伝えたから」
するとお姉ちゃんが本当に静かに、
「そうなのかよ」
と呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます