【思い出のライン】
・
・【思い出のライン】
・
「おまちどおさま! むしろ! お勝ち殿様! 俺!」
意味分からん台詞だったので、無視しようと思ったけども、席に着いている私の顔を覗き込んできたので、無視できなくなった。
「何だよ! 意味分かんないよ!」
みたいなことを言っていると、美代も近付いてきた。
いつも通り席に座って会話が始まる感じだ。
正太郎がポケットの中から10円玉を10個取り出して、机の上にスッと置きながらこう言った。
「この昼休みは、俺が見つけたコインクイズに挑戦してもらいます」
何だか妙に自信満々だ。
でも自分で作ったわけではないらしい。
見つけたコインクイズか。
もしかしたら、
「見つけたコインクイズなら、私知ってるかもしれないよ? というか、そういうのも算数的な考え方だから多分知ってるよ?」
しかし正太郎はブンブン首を横に振って、
「いやいや! これはもうすごすぎるから絶対鈴香も美代も知らない!」
「いや逆にすごすぎた場合、有名ということになっちゃうから知ってる可能性ガン上げだよ」
と私がツッコむと、美代が頷きながら、
「確かに。すごいモノって有名だもんね」
それに対して正太郎はちょっと固まってから、いやそんなことは無いといった感じに自分の頬をぺチンと叩いてから喋りだした。
「この10個のコインを並べて、4個で1本のラインを5本作って下さい!」
さぁ、勝負だ! といった感じの語気の強めたようだけども、ゴメンね、これ私やっぱり知ってるわ、と言おうとしたところで、美代が、
「えっ? コインの数足りなくない? 無理じゃない?」
と正太郎が言ってほしそうなことを言った。
そうなると当然得意げになるだろうなと思いつつ、正太郎のほうを黙って見ていると、
「実は作れるんだよなぁあ!」
と完全に語尾を上げて言って、あっ、私のあれと一緒だと思った。
そして人がやっているのを、こう客観的に見ると、あんなに滑稽だったんだと改めて気付かされて、恥ずかしくなっきた。
あんまりそうならないように注意しようっと。
気にしないことにしていた時期もあるけども、やっぱり語尾が上がらないように注意しようっと。
「さぁ! 鈴香! 美代! 俺のクイズが分かるかぁっ!」
また語尾が上がった、と思いつつ、私はハッキリ言うことにした。
考えている美代を尻目に、もうド直球で言うことにした。
「これ知ってる」
愕然とした正太郎。
美代は何か尊敬しているような目でこっちを見てくれて、一気に私の自尊心は爆上げだ。
「まあ私って何でも知ってるからなぁ!」
……しまった、美代が尊敬の目で見てきたせいで、普通に語尾も爆上げしてしまった。反省します。
机に両手をつき、まさか……というような感じで震える正太郎。
美代はニコニコしている。可愛いな、美代。
私は語尾を上げないように喋りだした。
「まっ、美代が答えるまで黙っているよ」
すると美代は首を横に振って、
「いいよ! 鈴香が答えていい!」
と言ったところで正太郎が、
「待て! 美代には悩んでもらう!」
と叫んだ。
しかし美代はフンといった感じに首を動かし、
「鈴香が分かっているんだから、もう問題としては負けているよねっ」
正太郎はガクっと首を下に向け、肩を落とした。
”まあ追い打ちかけても仕方ないし”とか思っていると、正太郎が急に顔をガバッと上げて、こう言った。
「鈴香が嘘ついてるかもしれない! 本当は分からないんだろ! 答えてみろ!」
急に負けず嫌い感、ひいては男子の良くない部分を出し始めたな、と思いつつも、私はさらさらとコインを動かし始めた。
○
○ ○ ○ ○
○ ○
○
○ ○
「こうでしょ? こうやって魔法陣みたいに配置すると完成だね」
喜ぶ美代に、薄暗くなっている正太郎。
これでこの会話は終わりにしてあげようかなと思っていたその時、正太郎が、
「でも鈴香は元々知っていただけだ! 鈴香が解いたわけじゃないから引き分けだ!」
と声を荒らげた。
いやでも勝負を持ち込んだ時点で、そこの勝ち負けはあるだろと思ったし、あとはそうだね。
「じゃあ正太郎のそのクイズ、越えてあげようか?」
本当は追い打ちかけても仕方ないし、言わないでいこうと思ったんだけども、引き分けだなんて言い出すなら私もやってやろうじゃないか。
瞳に炎を灯すと、美代が生唾をゴクリとしてから、
「越えるってどういうこと……鈴香……何か最高の展開だね!」
いやまあ正太郎からしたら最低の展開だろうと思っていると、正太郎が、
「嘘だ! 嘘だ! ハッタリだ! テレビでこの形が完成と言っていたんだ! これ以上の方法は無い!」
「いやあるんだよ」
そう言ってから私はスッスッスッとコインを動かした。
○○○○○○○○○○
「こうやって、左端から数えて1本、1個ズラして数えだして2本……という感じで、計7本作れる。そのクイズは一列に並べてはいけないというルール無いでしょ? 別にコインが重複することは良いわけだし」
正太郎は口から泡を噴き出すくらいの感じで、その場で呆然自失。
美代は手を挙げて大喜びで、
「すごい! 答えを越えるってすごい! さすが、さんすう探偵! 数字が関わったらこれ以上無い強さだね!」
あぁー、自尊心が満たされるわー、何かもうRPGみたいにレベルアップして、自尊心の最大値が増えたくらいの感覚だー。
正太郎は石像になったくらい動かなくなったので、残りの昼休みは私と美代で行動した。
そして事件は放課後起こる。
いつも冷静なイッチンが何か慌てている。
最終的には口から泡が噴き出そうな顔して、その場で固まっていた。
一体どうしたのだろうか、と思って私はイッチンに話し掛けた。
「どうしたの、イッチン。何か困ったことがあるなら、さんすう探偵にお任せよぉ!」
何か昼休み以降、調子に乗ってしまい、もうこの段階から語尾が上がってしまった。いけない、いけない。真面目にしなきゃ。
でもイッチンは何だかキョロキョロするだけで、なかなか答えてくれない感じ。
そんなところで声がした。
「おまちどおさま! 必要あれば、ことば探偵にお任せだ!」
急に二人の人間に囲まれてビックリしたのだろう、その場にしゃがみ込んでしまったイッチン。
いやいや驚かすつもりは無かったのになぁ、と思っていると、正太郎が優しくイッチンの背中を触りながら、座り込み、
「大丈夫、俺はいつだってイッチンの味方だ。何かあったら頼ってほしい。正直頼られたほうが嬉しいんだよ。なんせかまってちゃんだからな!」
そう満面の笑みでイッチンの顔を覗き込んだ正太郎。
無表情じゃないということはマジなんだ、マジのかまってちゃんなんだ、まあそんな感じはしていたけども。
イッチンも正太郎も立ち上がり、イッチンが小さな声でこう言った。
「ロケットが無くなっちゃったんだ」
すると正太郎は無表情に、
「宇宙に帰るためのっ?」
いや!
「そのロケットじゃないでしょ! 思い出の写真とか入れる首飾りみたいなもんだよね!」
イッチンは私の言ったことに頷いた。
というか何か困っている時にそんなボケるよな、正太郎。
まあいいや、そんなことよりも、イッチンのほうだ。
「じゃあそのロケット、私も一緒に探すよ!」
と私が言うと、イッチンは首を横に振ってから、
「いいよ……みんな忙しいでしょ……」
と言ったので、私はハッキリとこう言った。
「めっちゃ暇! だから大丈夫! 一緒に探すよ!」
するとイッチンは少し悩んでいるように斜め上のほうを見ている。
ここで正太郎が喋りだして、
「というか何かを探すこととか好きだし! 宝探しみたいで大好きなんだ! 好きだから一緒に探させてほしいんだ!」
イッチンも納得したのか、頷くと、イッチンが無くしたロケットの説明を始めたその時だった。
「話は正太郎のデカい声で聴いていたよ、僕も手伝っていいかな?」
「モグモグ! 私もやるよー! モグー!」
「イッチン! そういう時はオレたちを頼れよー!」
隼輔くんと、華絵と、キャムラだった。
ちょうど教室に残って作業していた全員がイッチンのために駆けつけた。
イッチンも最初は戸惑っているようだったけども、正太郎がニッコリ微笑みながら、グッドマークを出したところでイッチンがロケットの説明をし始めた。
ランドセルに付けていたロケットが落ちてしまったみたいで、そのロケットはエメラルド色で、手のひらで握れるサイズ、形状は楕円形、そこにはイッチンが親戚の人たちと遊んだ思い出の写真が入っているという話だった。
私はすぐさま、
「まずは交番に行って説明して、それからイッチンの行動したルートを探ろう!」
それにみんな呼応して、早速校門の外へ出た。
近くの交番で「見つけたら連絡してほしい」と言ってから、あとはもう総力戦だ。
イッチンは、学校の中はもう自分で完璧に探したらしいので、学校来る前の、登校の時に通ったルートを探しまくるだけ。
イッチンはどうやら直接学校へ行ったわけではなくて、公園を経由して学校へ行ったらしい。
そこは緑野公園と言って、お花や木々が多くて、いわゆる植物公園みたいな感じだ。
正太郎は緑野公園についてすぐに、イッチンへ無表情で、
「何で緑野公園に来たんだ、芋育ててるの?」
それに困惑しているイッチン。
私はすかさず、
「芋育てているなら畑に行くでしょ! 勝手に公園で自分の敷地作ってないよ! イッチンは!」
「いやでも芋なら逐一見に来ないとダメだから」
「むしろ芋はそんな逐一見なくてもいいほうの野菜だよ!」
全く、こんな時でもボケるなんて、ただのバカだよ、とちょっと呆れてしまった。
隼輔くんも、キャムラでさえ、すぐに一生懸命探しているのに。
華絵は相変わらずモグモグしながら探している。
すると正太郎が華絵のお菓子を少しもらって、それをイッチンに渡した。
イッチンは戸惑いながら、
「大丈夫です……」
と言うと、正太郎は、
「そんなことない」
と言って優しく手渡した。
いや、そんなことはないってなんだよ、オマエの主観はどうでもいいんだよ。
その行動を見ていた華絵がハッとしてから、
「お菓子食べたい人がいたら、言ってね! 探すのにも脳使うから! 糖分補給! モグー!」
するとすぐにキャムラが近付いてきて、
「じゃあ半分もらうわ」
それに対して華絵が、
「半分はいきすぎでしょ! モグー!」
と言って怒った時に、少し驚いたキャムラが多分モグラの穴に足をとられたみたいで、尻もちをついたので、何か笑ってしまった。
隼輔くんは、
「モグとモグラの穴がシンクロすることあるんだね」
美代はその言葉が妙にツボったらしく、めちゃくちゃ笑っていた。
キャムラは恥ずかしそうに立ち上がりながら、
「オレを見ているな! みんな探せ!」
と叫んだ。
またそれぞれ探し出すと、美代がイッチンにこんなことを聞いた。
「イッチンってさ、植物好きなの?」
「……うん……」
コクリと小さく頷いたイッチン。
それに対して美代は、
「えっ! 私もなんだぁ!」
と言って喜んだ。
そうなんだ、美代って植物好きだったんだ、と私は今初めて知った。
でもそう言えば確かにパンの話になると、しきりに野菜や果物のことを言うと思ったら、そういうことだったのか。
親友の知らない一面を知れて、何だかホッコリしてしまった。
いやいや、そんなことよりも探さないと。
と、思っても、なかなか見つからないモノで。
もしかすると誰か持っていってしまったのかなぁ。
探している最中、キャムラがお菓子を一度に口へ入れ過ぎて、えずきすぎ事件や、キャムラがツタに足を絡ませ倒れたけども、垣があったおかげで助かった事件、さらには、キャムラがモグラの穴からモグラが出る瞬間を見てしまったと言うが誰も信じない事件など、とにかくキャムラ無双だった。
その勢いでイッチンのロケットが見つかれば良かったのに、と思ったけども『どの勢いで?』みたいなところもあるし、結局見つかることは無かった。
緑野公園はあとにして、イッチンの家までの道中を探す私たち。
でもそこはもうアスファルトだし、見やすいので完全に無いことが分かって。
ふと、私は思った。
でもそれでいいのかな、と思いつつも、私は、
「ちょっとイッチンの家と私の家近いから、私一旦家に帰ってすぐ戻ってくるね!」
と言ってその場を去ろうとすると、キャムラが、
「飲み物頼む!」
と叫んだけども、まあそれは無視でいいだろうと思いながら、家に帰って行った。
そして私はあるモノを持って、そしてまあ一応ランドセルに缶ジュースを詰め込んで、みんなの元へ戻っていった。
みんなの元へ戻ると、イッチンの道中も完全に見終わったあとらしく、みんな残念そうな顔をしていた……と思ったら、一人だけそんなに残念そうな顔をしていなかった。
やっぱりそうだ、探偵の基本は観察なんだ。
私は全員に缶ジュースを渡すと、こう言うことにした。
「とりあえず一回緑野公園に戻らない?」
するとキャムラが、
「何でだよ! まあ飲み物くれたから行くけど!」
というわけで、全員で緑野公園に移動した。
道中と緑野公園は近いので、すぐだった。
そして私は思ったことを実行した。
「ねぇ! みんな! みんなで探した記念に写真を撮らないっ?」
すぐさまキャムラが、
「何の記念だよ!」
とツッコんだ。
でもすかさず美代が、
「でも記念かもっ、イッチンと植物の話で意気投合できるとは思っていなくてっ」
と、言ってからイッチンへニッコリと微笑みかけた。
イッチンも何だか楽しそうだ。
そう、あの時、唯一残念そうな顔をしていなかった人物、それがイッチンだった。
私は度々、イッチンの顔を見ていたが、イッチンは見つからない悲しみよりも何だか一緒にみんなで探している・行動している楽しさのほうが強く感じているのでは、と思っていた。
だから、
「まあとにかく! ロケットは見つからなかったけども、新しい思い出が見つかったということで!」
知っている。
これが答えじゃないことを。
でも時に新しい答えは今までの答えを越えることがある。
私は確信した。
イッチンは今日という日を楽しんでくれていることを。
ちゃんとした探偵なら正しい真実を探さないといけないかもしれないし、さんすう探偵ならなおさら解にこだわらないといけないかもしれないけども、こういう正解だってあるんじゃないかな、って思ったんだ。
隼輔くんはこう言った。
「まあイッチンのロケットが見つからないのは残念だけども、キャムラのバカ騒ぎが見れて面白かったな」
キャムラはすぐに、
「バカ騒ぎじゃないわ! ずっとオレは真剣だったわ!」
と言いつつも、みんなで笑い合って。
写真は近くを散歩していた人に撮ってもらって、今日という日が終わりそうなその時だった。
隼輔くんのスマホが鳴った。
隼輔くんが電話に出ると、なんと、
「イッチン、ロケット見つかったって!」
割といつも冷静な隼輔くんも声を荒らげ、みんなでイッチンを祝福した。
そしてみんなで交番へ行って、ロケットを手に入れて、みんなバイバイといった感じになった。
その後、私は写真を現像して、みんなに渡した。
さらには機械に詳しい美代に、データにしてもらって、それもみんなに配った。
ちなみに後日、正太郎に「序盤意味無くボケていたね、正直少し呆れたよ」みたいな話をした時、正太郎が「自分を変なヤツにすることにより、より喋りやすくなるかな」と思っていたらしい。
そういうことを考えていたのか、と何か納得してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます