【ドッヂボール】
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・【ドッヂボール】
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今日は体育の授業でドッヂボールをしている。
私は正直やる気が無い。なんせ知性派なんでっ。
しかし男子は相変わらずバカで、女子に対しても、剛速球を投げている。
お猿さんじゃん、女子には優しく、綿飴を扱うようにしなさい、とか考えていると、
「危ない!」
目の前でボールが弾かれて、ボールは真上に飛んだ。
それをキャッチして、一安心といった感じなのは隼輔くんだ。
「鈴香さん、そんなところでボーッとしたら危険だよ」
どうやら隼輔くんがボールを上に打ち上げて、守ってくれたらしい。
周りの女子たちは何かキャーキャー言ってる。
隼輔くんがカッコイイみたいな感じだ。
いや別にドッヂボールしている小学六年生なんて小学六年生だろ、と思うので、私は特に何も思わないんだけども、外野はなかなかのテンション。
まあ一応、
「助けてくれてありがとう」
と言っておくと、隼輔くんはニッコリと微笑みながら、味方である私に対して、優しくボールを当てて、こう言った。
「考え事をしていたら危ないからね、鈴香さんはもう外に出るべきだよ」
その言葉にさらに女子たちがヒートアップ。
いやそれ以上に熱くなっているヤツがいた。
キャムラだ。
「何だよ隼輔! 味方が減ったら、うちらのチーム負けるだろうがよぉ!」
それに対して隼輔くんは首を横に振って、
「僕が鈴香さんの分まで頑張るから大丈夫」
と言って髪をかき上げた。
それにさらに女子たちは爆発するし、キャムラも大爆発する。
「オレも! オレも! オレも鈴香の分まで頑張るんだからな! だからもういい! 鈴香は邪魔だから外野へ行け!」
何かキャムラに言われるとイラッとするな。
いやまあ言い方なんだろうけども、と思いながら私は隼輔くんからボールを奪って、キャムラに投げつけた。
「イテェ!」
キャムラが背中を触りながら、こっちを見た。
「私はまだまだ現役! 隠居はしない!」
そう私が言い放つと、周りから小さな拍手がパラパラと鳴った。
キャムラは落ちたボールを持って、振りかぶったその時、その振りかぶったボールを手のひらでグッと抑え込んだ隼輔くんが、
「まあまあ、そのパワーは相手チームに振りかざそう」
「いやでも隼輔! オレは今鈴香にやられて!」
そうキャムラが言うと、隼輔くんはこっちのほうを見ながら、
「だからゴメン、鈴香さん。鈴香さんの気持ちを考えずに勝手なことを言ってしまって」
と言うと、キャムラがムキームキーと猿のように怒りながら、
「オレに謝れ! 隼輔も鈴香も!」
と言ったところで、相手チームから野次が飛んできた。
「モグモグ! 内輪揉めはそのへんにしてぇー! モグモグ!」
華絵だ。
そんな食べながら運動なんて一番危ない上に、脳に糖分補給する必要、ドッヂボールの時いらないだろ。
華絵の野次に続いたのは正太郎だった。
「隼輔! 訳分からん行動ばかりしてないで、ちゃんとドッジボールしよう!」
正太郎の割にはまともなことを言っているな。
まあそれだけ真面目にドッヂボールをしたいというわけか、と思って見ていると、華絵がニコニコしながら正太郎に近付き、
「意見が合うね! モグー!」
と言いながら正太郎の手を掴んで、ブンブン腕を振っていた。
すると周りの女子たちがまた沸いた。
一体、どこに沸く要素があったのだろうか。
華絵が良い食べっぷりということなんだろうか、と思っているとどうやら違うらしい。
周りの女子たちの会話が少し聞こえてきた。
「正直華絵ちゃんと正太郎くんってお似合いだよね」
「分かるー、美男美女だし、最近毎日ずっと一緒にいるよねー」
何か、よく分からんけども、めちゃくちゃムカムカしてきた。
いや別に私のほうが正太郎と長くいるし。
いやまあ別にそれもどうでもいいんだけども。
でも何か、とにかくイライラしたので、
「キャムラ! ボール渡せ!」
と妙にデカい声が出てしまった。
キャムラはちょっとビビったらしく、素直に私にボールを渡してきた。
この渾身のボールで……正太郎をリタイアさせる!
私は全力で正太郎へ向かってボールを投げつけた。
しかしボールは明後日の方向へ飛んでいき、私の視界から消えた。
一体どこへいったんだと思ったその時、私の頭上でボールが跳ねた音がした。
でも私は別に頭は痛くない、何だろうと思っていると、急にハッとしてしまった。
何故なら隼輔くんが異様に私へ近付いていたからだ。
「わわわわわぁーっ!」
情けない声を上げながら、その場に尻もちをついた私。
そんな私に手を差し伸べたのが、またその隼輔くんで、
「大丈夫? ボールは僕が弾いたから当たっていないはずだけども」
ボール? 弾いた?
あぁ、そうか、隼輔くんが多分私の頭に当たるはずだったボールを弾いて守ってくれたんだ。
というか私、真っすぐ正太郎に向かって投げたはずなのに、真上に投げているって……めちゃくちゃ恥ずかしい……し、それ以上に、一瞬隼輔くんと私が一つになるんじゃないかと思うくらい近付いた時があって、その時も何かアレだったな……とか思っていると、正太郎が自分のチーム内の枠から出てきて、こっちへ向かって走ってきた。
「大丈夫か、鈴香?」
心配そうに私を上から見ている正太郎。
あぁ、そうだ、まず立ち上がらないと、と思いながら立ち上がって、
「いや別に全然大丈夫だけども」
と言うと、正太郎は一瞬安心したような顔をしたけども、すぐに何故か不満そうな表情になって、隼輔くんへ指を差しながらこう言った。
「というか隼輔、ちょっと鈴香に近すぎたぞ」
いつもの無表情でボケている感じではない。
全然無表情じゃないから。
普通に不満というか怒っているというか、何かそういう感じだった。
何に怒っているんだろうと思いながら、なんとなく隼輔くんと正太郎のほうを私は眺めていた。
隼輔くんは後ろ頭をポリポリと掻きながら、
「別に。守らないとダメだと思ってさ」
その言葉にまた周りの女子たちがキャーキャー言っている。
うるさっ、それはそれで猿かよと思っていると、正太郎が、
「別に当たったところでそんな痛くないだろ」
何この枕詞に”別に”祭り。
塩対応祭りなのかな。
いやでも実際何か妙に険悪な感じ。
塩対応祭りの始まりの合図あったのか? と思っていると、急に正太郎が「イテェ!」と痛がったと思ったら、キャムラが、
「よっしゃ! 正太郎を倒したぞ!」
と叫んだ。
あぁ、確かに、と思っていると隼輔くんが、
「ほら、邪魔者は外野に行きなよ」
と何か妙に冷たく正太郎に言い放った。
いやこの感じ、ちょっと嫌だなと思っていると、正太郎が、
「絶対隼輔のこと当ててやるかな!」
と言いながら外野のほうへ走っていった。
何かよく分かんないけども、いろいろ負けてるな、と思いながら私は正太郎のほうを見ていた。
するとキャムラが鼻高々にこう言った。
「オレ! 超活躍! さっき鈴香がクソ投げしたボールを隼輔が弾いたけども、それもオレがキャッチしたし! 正太郎も撃破したし!」
あっ、私のあれ、クソ投げって言われている……いやまあそうだけども……でも、ちょっと腹立ったので、ボールを拾って軽くキャムラにぶつけた。
「何で!」
と叫んだキャムラのリアクションに、周りがちょっとウケたので良かった。
さて、ここからあとはどんどん相手チームを減らすだけ、と思ったその時、こっちのほうにいる外野、つまり相手チームのヤツがポツリとこんな言葉を零した。
「外野ってつまんねぇよー、端っこにいると当てづらいしー」
ヒロシだった。
ヒロシは結構早い段階で負けて、ずっと外野にいる。
さらには仲間内でのポジション争いにも負けて、ずっとコートの角の部分に立っていた。
その時、私は妙案が浮かんだ。
これを言えばきっと私の株が上がるって思った。
正直さっきのクソ投げで私の株は下がっているだろうから、ここはヒロシを利用して自尊心を爆上げすることにした。
「じゃあ後半は平等なドッヂボールのコートでするぅ?」
私はまた語尾が上がった。
でももう今のは上げにいったくらいの気持ちだ。
全然気にしない。
それに対して外野にいた美代が、
「ちょっと鈴香……語尾上げすぎでしょ……」
と割とヒキながらそう言ったので、やっぱり今後は語尾を上げずにいこうと思った。
いやそんな語尾のことはどうでも良くて、ドッヂボールのコートの話をしようと思ったその時だった。
田中先生が笛を吹いた。
「ダメ! 私が最高の長方形を描いたんだからこのコートでやります!」
何でこの先生、そんな自分の四角形を前面に出したいんだ、と思いつつ、私は田中先生を無視してさっさと説明を始めた。
「コートを大きな円形にすれば、どこから投げても平等になるんです」
そう言いながら私はグラウンドに大きな円を描き始めようとしたら、田中先生が、
「じゃあもう分かりました! 円は私が描きます! 良い円ができたら褒め称えるように!」
と言いながら綺麗な円を描き切った。
というわけで円のことは褒め称えて、田中先生が上機嫌になったところで、ドッヂボールは再開となった。
この円の案を言ったことにより、私は周りから「さすが、さんすう探偵」といっぱい言ってもらえたし、すごく良かった。
ヒロシからもめちゃくちゃ感謝された。
いやまあヒロシはマジでどうでもいいとして、それ以外だと何か隼輔くんと正太郎がバチバチやり合っていることが気になった。
急にどうしたんだろう。
まあいいや、華絵のお菓子が美味い。
(私はその後、早々敗退して、同じくらいのタイミングで敗退した華絵と共に、ドッヂボールの外野からも離れて、一緒にお菓子を食べながら観戦していました)
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